親鸞聖人750回大遠忌法要は無事円成いたしました。多くの方々のご参拝、誠にありがとうございました。
親鸞聖人750回大遠忌宗門長期振興計画

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『浄土真宗聖典全書』 「宗祖篇上」の魅力にあたって 『聖典全集』2011(平成23)年4月号掲載
-新たな始まり 親鸞聖人750回大遠忌宗門長期振興計画の現状-vol.38

はじめに

   宗門長期振興計画の重点項目⑤「時代に即応する教学の振興」のうち、教学伝道研究センターでは、この度の親鸞聖人七百五十回大遠忌を記念して、『浄土真宗聖典全書(宗祖篇上)』(以下『聖典全書』「宗祖篇上」』)が刊行されました。すでにお持ちの方もおられると思います。これまでにも『宗報』の誌面で、何度かこの『聖典全書』について紹介してまいりましたが、今回は改めてこの『聖典全書(宗祖篇上)』の魅力や活用法について紹介したいと思います。

親鸞聖人の真筆を網羅

   今回の「宗祖篇上」は、「宗祖篇下」と合わせて、現在学界で認知されている親鸞聖人の真筆をすべて収録しています。特に「宗祖篇上」で申しますと、『顕浄土真実教行証文類』は、真宗大谷派蔵親鸞聖人真筆本(いわゆる坂東本)が底本となっています。また二段組で翻刻した『尊号真像銘文』は、上下段ともに高田派専修寺蔵の親鸞聖人真筆本が底本となっており、親鸞聖人がたびたび書写して門弟に与えられた聖覚法印の『唯信鈔』は、底本だけではなく対校本にも親鸞聖人の真筆本を用いています。近年発見されたものとしては、平成4(1992)年に本派本願寺宝物庫より発見された「道綽禅師略伝」、あるいは平成14(2002)年に大阪府八尾市で発見された経文の抜粋や、昨年末に大谷大学で初公開された願文の抜粋などもすべて収録されています。少し変わったところでは、親鸞聖人が本尊として用いられた名号や「鏡御影」などの親鸞聖人影像の、上下段に書かれている経論の讃銘もすべて収録していますし、親鸞聖人ご自身の手控え、あるいは門弟へ書き与えられたと考えられる断簡などもすべて収録しています。さらに「三帖和讃」については、この誌面でも何度かお伝えした通り、三段組で翻刻しています。特に中段と下段に翻刻した高田派専修寺蔵の、いわゆる国宝本と顕智上人本については極めて多くの左仮名(左訓)が施されており、それらが系統ごとにどう書かれているのか、違いがひと目で分かるようになっています。
   これだけ親鸞聖人の真筆本をはじめとした善本を収録した聖典や資料集は、今回の『聖典全書』が初めてのものになります。

『浄土真宗聖典全書(宗祖篇上)』

『浄土真宗聖典全書(宗祖篇上)』


他の収録

   「宗祖篇上」には、親鸞聖人の書かれたものだけではなく、親鸞聖人の言行を伝えた『恵信尼消息』や『歎異抄』なども併せて収録しています。たとえば『恵信尼消息』には、親鸞聖人のそばに長くおられた恵信尼公ならではの貴重な内容が多く含まれており、親鸞聖人の比叡山時代や源空(法然)聖人との出遇いにいたるまでの経緯など、他の資料では知ることのできなかった事柄を伝えています。また『歎異抄』も、親鸞聖人の法語を伝えたものとしてきわめて広く知られており、やはり他では知ることの出来ない親鸞聖人のすがたを多く伝えています。他にも親鸞聖人が門弟への消息の中で、何度も熟読するように勧められている『唯信鈔』『自力他力事』『一念多念分別事』『後世物語聞書』も収録しています。


付録の活用

   本年の新年号でもお伝えしましたが、「宗祖篇上」には、さまざまな付録があります。今一度記しておきますと、①底本・対校本一覧、②『顕浄土真実教行証文類』返点校異、③「親鸞聖人御消息」配列各本対照表、④『顕浄土真実教行証文類』科段、⑤年表、⑥系図の6項目です。
   これらのうち、今回は④⑤⑥について紹介しますと、まず④の『顕浄土真実教行証文類』科段では、親鸞聖人畢生の大著である『顕浄土真実教行証文類』(以下『教行信証』)の科段を、『本典研鑽集記』(是山和上研鑽指導宗学院同人集記)に基づいて示しています。科段表を開いていただきますと、そこに付されている連絡頁、および本文の冒頭の四文字を確認すれば、どの文章が起点となってどういう釈や引文が展開しているのかなどが分かります。また本聖典には、『浄土真宗聖典(註釈版)』(第二版)(以下『註釈版』)に準じた柱書が付されていますが、柱書とは、あくまでその大枠を示したものです。今回の科段表では、例えば柱書には「引文」としか示されていない箇所に、誰の著作が、何文引かれているか、というところまで示しています。
   次に、⑤の年表では、親鸞聖人が著作を執筆された時期と共に、身の回りに起きたさまざまな出来事も含めて記しています。たとえば『恵信尼消息』には、親鸞聖人が帰洛されてから火事にあわれたことが記されている箇所があります。こうした時に年表を開いていただきますと、その火事とは、親鸞聖人が83歳の時の、建長七(1255)年12月10日のことであることがわかります。また、夢中での和讃の感得や、息男である慈信房(善鸞)の義絶等についても、その時期を年表から確認できます。このように、親鸞聖人が、いつ、どういう状況で、何を述作されたのかについて確認しながら拝読していきますと、より一層、親鸞聖人のお心を感じることができるのではないでしょうか。
   また、⑥の系図では、親鸞聖人の縁故者についてまとめられています。先掲の『恵信尼消息』には、親鸞聖人と親子の縁にある「ますかた」が、親鸞聖人の示寂の場に立ち会われたとの記述があります。そこで、系図を見ていただきますと、親鸞聖人の第五子に「益方」という名が記されていることが確認でき、親鸞聖人との関係がより深く理解できます。
   このように、お聖教を拝読するにあたって、非常に有益な付録が揃っています。ぜひ活用していただければと思います。


これからの刊行予定

   今回、刊行されました「宗祖篇上」は、『聖典全書』全体では第二巻にあたります。そこで『聖典全書』全六巻の刊行予定を以下に記しておきたいと思います。

第2巻「宗祖篇上」2011(平成23)年3月刊行
第1巻「三経七祖篇」 2012(平成24)年度刊行予定
第5巻「相伝篇下」2013(平成25)年度刊行予定
第4巻「相伝篇上」2015(平成27)年度刊行予定
第3巻「宗祖篇下」2016(平成28)年度刊行予定
第6巻「補 遺 篇」2018(平成30)年度刊行予定

   通巻ごとの刊行ではないので少し驚かれるかもしれませんが、さまざまな検討を経てこのような順になりました。次は来年度に「三経七祖篇」が刊行予定であり、その次の「相伝篇下」には蓮如上人に関するもの、その次の「相伝篇上」には覚如上人・存覚上人に関するもの、その次の「宗祖篇下」には、親鸞聖人によって書写された源空聖人の法語集『西方指南鈔』や曇鸞大師の『往生論註』および善導大師の五部九巻の加点本など、最後の「補遺篇」には本願寺関係の史資料などになります。


最後に

   今回、本聖典のキャッチコピーとして「聖典の最高峰」と銘打ちましたが、以上述べてきた本聖典の特徴や工夫によって、その名に恥じないものとなっていると自負しています。しかしながら聖典を編纂するということは、刊行をもって終了するというものではありません。本聖典がより多くの方々に拝読されることによって、ひろく皆様のご批判、ご助言をいただきながら、より完全なものにしていくのが聖典編纂のつとめであると考えています。本聖典を通して一人でも多くの方が宗祖のお言葉の一つ一つに触れていただければと思います。
   なお、最後になりましたが、本聖典を編纂するに当たって、親鸞聖人の真筆をはじめ諸聖教の善本を網羅するには、それらを所蔵する寺院や個人、及び関係学校の多大なる協力が不可欠でありました。ここに甚深の謝意を表します。

(教学伝道研究センター)