バランスと少欲知足 -仏さまの教えを聞き、欲望を制御する生活を-

本願寺新報 2016(平成28)年8月10日号掲載
大田 利生(おおた りしょう)(勧学 広島県江田島市・大行寺住職)

均衡を保つ自然界

カット 林 義明

 今朝もホトトギスの鳴き声が聞こえてきます。「夏は来(き)ぬ」の一番の歌詞には、

  卯(う)の花の 匂(にお)う垣根(かきね)に
  時鳥(ほととぎす) 早も来鳴(きな)きて
  忍(しの)び音(ね)もらす 夏は来(き)ぬ

とあります。

 このように親しまれているホトトギスですが、いわゆる托卵(たくらん)する鳥としてよく知られています。ホトトギスはウグイスの巣に卵を産み、ウグイスはそれを知らずにあたため、先にふ化したホトトギスのひなは、ウグイスの卵を巣から落としてしまうのです。ウグイスは、ホトトギスの雛を自分の子どもだと思い込んで、育てていくのですね。

 このような鳥の世界のはなしから「バランス」ということが頭に浮かんでくるのでした。それは自然界は自然そのままでバランスが保たれているんだなあ、そして、人間はバランスをとろうとして、逆にそれを壊しているのかな、と思ったことです。

 日常生活の中でも、栄養のバランスを考える、バランス感覚がよい、悪い、バランスよくできている、などとしばしば使っています。ただ、このバランスも、人間の命を保っていくという意味ではあまり聞かれないようです。たとえば、あの人はバランスをとって生きておられる、とか。でも考えてみますと、体の諸器官がバランスよく働いて元気でいられるのですから、健康とはバランスのとれた状態といえましょう。

 ともかく、自然界はそのままで、また人間が生きていくということも、ともに均衡が保たれている、そういう状況だといえます。そして、そこには、「少欲知足(しょうよくちそく)」(註釈版聖典26ページ)ということばが大きな意味をもってあらわれてくるように思われます。それは「欲少(よくすく)なく足(た)るを知る」ということを考え、実践していくところにバランスが保たれていく、そのように思えてくるからです。

欲には限りがない

 欲望というものは限りがなく大きく膨らんでいく本性があります。新幹線ができるまでは、新幹線以上速い乗り物は考えません。しかし、いったん新幹線が走ると、そのスピード以上のものを求め、手に入れようと懸命になります。

 『無量寿経』のなかには、「田(た)あれば田(た)に憂(うれ)へ、宅(いえ)あれば宅(いえ)に憂(うれ)ふ」「田(た)なければ、また憂(うれ)へて田(た)あらんことを欲(おも)ふ。宅(いえ)なければまた憂(うれ)へて宅(いえ)あらんことを欲(おも)ふ」(同54・55ページ)と説き明かされます。無いから求めるだけでなく、有っても有っても満足することがないということです。

 それは、こんな譬(たと)えで示すこともできるでしょう。手に砂を握っている人が、そのままでさらに砂をつかもうとしている姿です。砂にかぎらず、握っているものは手から放さなければ新しいものをつかむことはできません。さらに、つかむことのできないものまでもつかもうとしているのが凡夫(ぼんぶ)の私かもしれません。

 1歳ぐらいの幼児が外で遊んでいて、砂場に水道の水が流れている。それを一生懸命つかもうとしている。それは、水が棒に見えているからだ。こんな話を保育専門の先生から聞きました。たまたま子どもの話をしましたが、似たことは年齢に関係なくあるかもしれません。

 仏教では、欲望のことを煩悩と称して大きくとりあげ問題にします。それは、迷いの世界から悟りの世界をめざす以上、どうしても避けることができないからです。その場合、煩悩を断(た)つという方向が一つあります。これは、ある意味で理解しやすいといえます。ただ、わかりやすいということと、実際に行(ぎょう)ずるということは一つになるとは限りません。そこで、今一つの立場が重要になります。それが、煩悩を制御していくという方向です。

 これは煩悩を否定してしまうのではなく、かといって、湧き起こってくるものをそのまま容認したり、放置するものでもありません。そこに、制御することの意味があります。

 少欲とは欲望をなくすことではありません。また知足の意味は、心が穏やかなことである、ともいわれます。謙虚にこのことばのこころを聞いていくべきでしょう。

 親鸞聖人はお手紙で「仏(ぶつ)のちかひをききはじめしより、無明(むみょう)の酔(よ)ひもやうやうすこしづつさめ、三毒(さんどく)をもすこしづつ好(この)まずして...」(同739ページ)と説き示されます。深く味わいながら、念仏者としての生活を送っていきたいものです。

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