「称」は「はかり」-凡夫の私を称えさせて救う阿弥陀仏-

本願寺新報 2017(平成29)年10月20日号掲載
西原 祐治(にしはら ゆうじ)(仏教婦人会総連盟講師 千葉県柏市・西方寺住職)

1メートルとは・・・

カット 林 義明

 昨年、株式会社ミツトヨの創業者である沼田恵範(えはん)氏のご命日法要のため、本社がある川崎市と広島県呉市、栃木県宇都宮市の工場へ招かれました。恵範氏は1915年、仏教を伝えようと渡米し、英文雑誌「ザ・パシフィック・ワールド」を発刊しましたが、資金難により休刊。日本へ帰国して仏教伝道のために起業を志(こころざ)し、マイクロメータの国産化により、現在のミツトヨを育てた方です。仏教伝道では、仏教伝道協会を設立して、世界各国のホテルに『仏教聖典』の寄贈を始めた方です。

 ご生前は、横浜市鶴見区のご自宅で、毎月、法話会を開催しておられました。私も何度か、ご法話のご縁をいただいたことがあります。昨年が恵範氏の23回忌でした。

 さて、宇都宮工場へ出向した時のことです。マイクロメータは、微小な長さを精密に測定する機械のことです。はかりの会社なので、講話の中で、「1メートルは、光が真空中を1秒間に進む距離の2億9979万2458分の1」という話をしました。

 話を終え、工場長の方と一緒にお茶を飲んでいると、その工場長の方が次のように言われました。「私たちの会社は恵まれています。1メートルの単位は、どこではかっても1メートルは1メートルで変わることがありません。これが重さとなると地球には重力があるので、はかる場所によって重さが違ってきます」とのことでした。

 家に帰って調べてみると、赤道直下と北極点では同じものでも重さが異なるようで、赤道上での体重を1とすれば極地では0・5%増えるとあります。赤道上で100キロの人は、極地に行けば体重が500グラム増えて計量されるのです。

 工場長が言われた〝はかる場所によって重さが違う〟とはこのことです。その点、1メートルは、どこではかっても1メートルです。しかし、重力のもとでの重さの計量には違いが出てしまうのです。「そうなんだ」と思ったことです。

 人の体重なら数百グラム違っても、それほど問題はありません。しかし、これが金(きん)の商取引なら重要な問題です。高額であればあるほど、0・5%の違いは大問題です。

 実際、分析化学で使われる電子天秤(てんびん)などは、設置場所を変えると、日本国内であっても、誤差の調整が必要になることがあるそうです。逆にいえば、場所が変われば、電子天秤も正しいはかりではなくなるということです。

名にそなわる功徳

 秤(はかり)は、禾偏(のぎへん)に平という会意(かいい)文字です。禾偏は稲、平はたいらで同じ重さを表し、作物の重さをはかる天秤(てんびん)ばかりのことです。天秤は片側に重りをのせてはかります。1キロの重りにつり合う作物は、たとえ重力が違う所ではかっても1キロの作物です。量は変わりません。重力によって重さが違っても、違うまんまが、正しい質量なのです。

 念仏を「称(とな)える」の「称」の字も同様に「はかり」という文字です。旧字では「稱」と書き、どちらも「秤」と同様の会意文字です。

 親鸞聖人は、阿弥陀さまの名を称える「称」は、「称(しょう)の字、軽重(きょうじゅう)を知るなり。『説文(せつもん)』にいはく、銓(せん)なり、是(ぜ)なり、等(とう)なり、俗(ぞく)に秤(はかり)に作(つく)る、斤両(きんりょう)を正(ただ)すをいふなり」(註釈版聖典156ページ)と示されています。

 秤は、稱の俗字であり、斤両とは、斤も両も重さの単位で目方のことです。称は、正しい物の重さを示すということです。

 私が「南無阿弥陀仏」と、み名(な)を称えることは、それはそのまま、この凡夫(ぼんぶ)の私を「信じさせ称えさせて救う」という阿弥陀さまの願いとはたらきが、私の上に表れたものであるということです。

 南無阿弥陀仏のみ名(名号(みょうごう))を称えることは、どれほど値打ちがあることなのかといえば、「大行(だいぎょう)とはすなはち無礙光如来(むげこうにょらい)の名(みな)を称(しょう)するなり。この行(ぎょう)はすなはちこれもろもろの善法(ぜんぽう)を摂(せっ)し、もろもろの徳本(とくほん)を具(ぐ)せり」(同141ページ)と聖人は述べられています。

 阿弥陀さまのみ名を称えることは、善法と徳本、つまり私を仏にする法のはたらきと、私が仏になるすぐれた功徳が名号に具(そな)わっているのです。

 重力は物が上から下に落ちる姿の上に知ることができます。阿弥陀さまの私を仏にするというはたらきも、私が南無阿弥陀仏と如来のみ名を称えるところに知ることができるのです。

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