六字のいわれ -「大丈夫、ひとりじゃないよ!」

本願寺新報 2018(平成30)年10月10日号掲載
米田 順昭(よねだ じゅんしょう)(布教使 広島県廿日市市・最禅寺住職)

言葉本来の意味

カット 林 義明

 先日の新聞に、文化庁の平成29年度「国語に関する世論調査」の記事がありました。これによると、「なし崩(くず)し」や「檄(げき)を飛ばす」の本来の意味を理解している人は2割程度だという結果でした。

 時代の変化とともに言葉の意味も大幅に変わるのでしょうか。しかし、同じ記事に、あるべき言葉の使い方として、「書き言葉も話し言葉も正しく使うべきだ」と答えた人が47・6%もあるという調査結果もありました。

 多くの方々が、言葉の正しい意味や、言葉の持つ力に関心を持っているということなのでしょう。ちなみに、「なし崩し」のもともとの意味は「借金を少しずつ返していくこと」で、「檄を飛ばす」は「自分の考えを広く人々に知らせ同意を求める」とありました。

 ある時、ご門徒とお話をしていますと、日常語の中で仏教と通じている言葉が意外に多いという話になりました。

 「実は〝大丈夫〟という言葉も仏教に通じていますよ。十号(じゅうごう)という十種の仏さまの呼び名の中に『調御(じょうご)丈夫』という言葉があるのです。本当の意味で大丈夫と言えるのは仏さまだけかも知れませんね」

 「戸がガタガタいうとき、〝ガタピシする〟と言いますが、あれは『我他彼此』と書く仏教語なのです。自分と他人、あれやこれと物事を対立してとらえているから、そこから衝突や摩擦が生じるというのです。人や自然とのつながりを大事にしなくてはいけませんね」(本願寺出版社『くらしの仏教語豆辞典』より)

 こうしたご門徒との会話の中で時折、「南無阿弥陀仏ってどんな意味ですか」と尋ねられることがあります。

 親鸞聖人は、南無阿弥陀仏の六字を釈(しゃく)されて「本願招喚(しょうかん)の勅命(ちょくめい)なり」(註釈版聖典170ページ)と示されました。

 「我(われ)に帰(き)せよ」と喚(よ)び続けておられる如来の喚び声であるとのお示しです。つまり、南無阿弥陀仏とは、阿弥陀さまが私に向けて願いをかけてくださり、「安心しておくれ、私がそばにいるよ。あなたはかけがえのないいのちを生きているのですよ」と、私のいのちを包んでくださるお言葉なのです。

正しい意味を聞く

 先日、保育園のあるお寺の友人が、こんな話をしてくれました。大人が子どもに向けて言う言葉で多いのが、「早くしなさい」なのだそうです。

 朝は、早く起きなさい、早くご飯食べなさい、早くしないと学校に遅刻するよ...。

 学校では、早く着席しなさい、早く授業の準備をしなさい、トイレなら早く行きなさい...。疲れて家に帰ると、早く宿題しなさい、早くお風呂に入って早く寝ないと、また明日寝坊するよ...と言われます。これでは子どもの気の休まる時がありません。

 その友人の保育園では、園児を部屋に誘導する時、「早くしなさい」を使わずに、「みんな、そろそろお部屋入ろうか。先生待ってるよぉー」と声をかけるのだそうです。

 早く来る子も、遅くなる子もいます。でも、先生はずっと待ってくれているのです。早くできない時もあります。しかし、そんな時でもこの私を待ってくれる、受け止めてくれる世界があることは有り難いことです。

 子どもでも大人でも、大きな失敗をした時や、うまくいかない時などは不安になります。ともすれば、生きている意味を見失ってしまうこともあります。そんな時、あなたはかけがえのない人です。あなたが生きていることはとても意味のあることなんですよと、苦悩する私の全人生を受け止めてくださる言葉に出あうことは、大きな支えとなるでしょう。

  無慚無愧(むざんむぎ)のこの身(み)にて
  まことのこころは
  なけれども
  弥陀(みだ)の回向(えこう)の御名(みな)なれば
  功徳(くどく)は十方(じっぽう)にみちたまふ
         (同617ページ)

 人に恥(は)じ、天に恥じる心のないこの身であり、真実清浄(しょうじょう)の心はないけれども、阿弥陀如来が回向された名号ですので、その功徳は十方世界にみちみちておられると、親鸞聖人はお讃(たた)えになっています。真実の心がなく、苦しみ悲しみながら生きていくことしかできないこの私を、そのまま包んでくださっている仏さまのお言葉が、南無阿弥陀仏の六字だったのです。

 南無阿弥陀仏の正しいおいわれをお聞かせいただきましょう。お念仏は呪文(じゅもん)でもなく、私の願い事をかなえるための手段でもありません。私がお念仏申しながら生きる人生は、そのまま、阿弥陀さまが私を「大丈夫。あなたはひとりじゃないよ。あなたの人生は尊い意味を持っていますよ」と包んでくださっている姿だったのです。

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