読むお坊さんのお話

海の内外のへだてなく-お念仏が私に届いた「歴史」をよろこぶ-

橋本 正信(はしもと・しょうしん)

布教使・神奈川県茅ヶ崎市・来恩寺住職

世界仏婦大会

 第17回世界仏教婦人会大会が、5月11、12日の2日間、京都国際会館で開催されます。4年に1度、世界各地から浄土真宗のみ教えをよろこぶお念仏の仲間が集まり、にぎやかに開催されるのが、この世界仏教婦人会大会です。


 私が住職を務める来恩寺では、2006年の第13回ハワイ大会以来、14回日本大会、15回カナダ大会、そして4年前の16回北米大会と、毎回十数人で参加させていただいています。来恩寺からの参加者はほとんどがリピーターで、大会での海外の方々との交流会や、以前知り合った人たちとの再会を楽しみにしており、まさに「真宗宗歌」の3番の歌詞「海の内外のへだてなく みおやの徳のとうとさを わがはらからにつたえつつ 浄土の旅を共にせん」をよろこんでいます。


 それは海外からの参加者も同じだと思います。特に海外では仏教徒は少数派ですので、キリスト教文化やイスラム教文化の中では、肩身の狭い思いをしているのかもしれません。4年に1度のこの仏教婦人会大会で、大勢の仲間と共に大きな声でお念仏を称え、共にご法義を聴聞できることは、日本から参加している私たち以上によろこびがあるのだと思います。


 特に今回は、親鸞聖人御誕生850年・立教開宗800年慶讃法要のときに京都で開催されますので、ご本山での法要にも参拝でき、より一層「真宗門徒」としての自覚と誇り、そしてよろこびが心に染み入ることと思います。


 その海外からの参加者は、ほとんどが日系人です。もちろん日系以外の方もおられますが、大半は明治や大正、そして昭和の初め頃に、日本のご法義地から海を渡ったご先祖「一世」をお念仏のご縁とする日系人です。


 その一世の方たちにまつわる忘れられない思い出があります。


ハワイで一旗

 今から40年前、私はハワイ開教区カウアイ島コロア本願寺の新米開教使でした。コロア本願寺に着任早々、メンバー(ご門徒)から法事の依頼を受け、お寺の本堂で年回のご法要を行い、その後、墓地でのお参りも頼まれました。ハワイの墓地でお参りするのは初めてでしたが、案内された墓地は海のよく見える小高い丘のようなところにあり、日本の墓地と変わることのない背の高い和式のお墓がゆったりとした間隔でたくさん並んでいました。


 墓前での読経後、施主の男性からいろいろカウアイ島のお話をうかがいましたが、話の途中、あることに気づいたので尋ねてみました。

 「この墓地のお墓はみんな同じ方向を向いているのですね。どうしてですか?」


 すると、その男性は海の方向を指さし、「センセイ...。ジャパン...」と答えてくれました。最初は何のことかわかりませんでしたが、すぐに理解できました。彼の指さす海のはるか彼方には日本があるのでした。つまり、この墓地の墓石はすべて日本の方を向いているということでした。


 墓石は一世の方々が亡くなられたときに、子どもや孫たちが建てたものです。日本で生まれ、日本で育ち、たぶんハワイで一旗揚げて、やがては日本に戻る予定だった一世の人たち。しかし、現実は低賃金で過酷な労働に従事し、いつまでたっても日本に帰れないでいたのです。そんな子どもを心配して、日本の親たちは花嫁候補の写真を送って結婚を勧めました。


 やがてハワイで結婚生活を送りますが、子どもが生まれると、英語社会で育った子どもたちを日本に連れて帰ることは、子どもたちにとっては相当の負担と考えたのでしょう。一世たちは永住・移民を決断しました。


 そんな一世たちの合言葉は「子どものために」であったと、ハワイでの大会の時に、二世・三世の方々から教えていただきました。


 一世たちの苦労と、日本への思いを知る子どもや孫たちは、せめてお墓は日本に向けて建ててあげたいと考えたのでした。そして墓石の正面は、一世たちが称えていたお念仏、「南無阿弥陀仏」のお名号を刻みました。


 このたびの親鸞聖人御誕生850年・立教開宗800年慶讃法要は、親鸞聖人のよろこばれたお念仏のみ教えが、多くの方々をご縁として私のところまで届いた事実、「歴史」をよろこばせていただくご法要であり、次世代へつなぐ大切なご法要でもあります。


 ご一緒に、声高らかに、お念仏を申させていただきましょう。


(本願寺新報 2023年04月10日号掲載)

本願寺新報(毎月1、10、20発行・7/10、12/10号は休刊)に連載中の『みんなの法話』より

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