仏教語豆事典

あばた()

 「あばたもえくぼ」という(ことわざ)をご存知ですか。

 愛する者には、あばたさえもえくぼに見えるという、ほほえましいたとえです。

 こわいと恐れている人の目には、枯れ尾花もゆうれいに見えるという、「ゆうれいの正体見たり枯れ尾花」の類です。

 この「あばた」とは、サンスクリット語「アルブダ」の音写で、()れ物とか水疱(すいほう)という意味で、仏典にも出てくる言葉です。

 仏教で説かれる八寒地獄の一つに、阿浮陀(あぶだ)地獄があります。嘘をついたり、悪口を言ったり、聖者を軽蔑する言葉を吐いた者が落ちる地獄です。

 この地獄に落ちると、極寒にさらされるため、身体中に腫れ物ができ、そのために、たいへん苦しむといわれています。

 このアルブダ・阿浮陀があばたとなり、天然痘(てんねんとう)のあとに残る痕跡(こんせき)の意味となりました。

 現代では、幸いなことに、天然痘は種痘のおかげで無くなってきまし たが、「あばたもえくぼ」に見える心は、ますます盛んなようですよ。

本願寺出版社「くらしの仏教語豆事典」より転載