仏教語豆事典

阿鼻叫喚(あびきょうかん)

 「幾十万にも及ぶ広島在住の無辜(むこ)の民を、一瞬にして阿鼻叫喚の地獄に(さら)したということであります」。井伏鱒二(いぶせますじ)の『黒い雨』には原爆が投下された情 景を、このように描いています。

「阿鼻叫喚の(ちまた)と化す」と表現されるように、阿鼻叫喚は、戦場や大災害の惨状を形容する語句で、地獄絵そのままに、人びとが泣き叫び、逃げまどう悲惨な状況を表しています。

 この「阿鼻」も「叫喚」も地獄の名前で、八大地獄の中に入っているものです。

 阿鼻地獄は無間(むけん)地獄と訳されるように、間断なく苦しみを受ける地獄の中で最も苦しい場所です。

 叫喚地獄では、熱湯たぎる大の中に投げ込まれたり、猛火の鉄室に入れられたりの苦しみを受けます。

 この両地獄ともあまりの苦しみに 耐えられず、泣き叫ぶということころから、惨状を形容する言葉となりました。

 あれから六十年経ちました。

 このような阿鼻叫喚の情景が、世界中から無くなるように、念願したいものですね。

本願寺出版社「くらしの仏教語豆事典」より転載