仏教語豆事典

無事()

「全員、無事で帰りました」「おかげで無事に暮らしております」など、無事は日常よく使われる言葉です。 「平穏無事」の語もあります。  無事は、元来、仏教語で、精神的になすべきわずらいのない状態 をいっています。こだわりのない、障りのない心の状態を指しているのです。転じて、一般には、変わったことのないこと、つつがないことをいいます。 『臨済録(りんざいろく)』に「無事是貴人(ふじこれきにん)」とありますが、常識的な思考や分別にもとづいて悟りを求めることをせず、ただ人間の本来の姿に徹したそのままの人こそ尊ぶべき人だという意味です。 何も無かったということは有り難いことで、変わったことがない、とりたてて事件のない、安穏(あんのん)であることは幸せなことですよ。 だって、無事の対語は、事件や戦争などの「有事(ゆうじ)」ですから、無事は大切にしたいものです。

本願寺出版社「くらしの仏教語豆事典」より転載