仏教語豆事典

夜叉()

「熱海(あたみ)の海岸散歩する、貫一(かんいち)お宮(みや)の二人づれ」 尾崎紅葉(おざきこうよう)の『金色夜叉(こんじきやしゃ)の名場面です。 金のために許嫁(いいなずけ)の宮を奪われた貫一が、高利貸しとなって、金の力で、宮や世間に対し復讐の鬼となる物語ですね。 「外面似菩薩、内心如夜叉」という言葉を聞いたり、夜叉の面を見たりすると、夜叉は恐ろしい鬼のイメージです。 夜叉は、サンスクリット語「ヤクシャ」の音写で、勇健という意味です。 ヤクシャは古代インドの神話に登場する半神半鬼で、神通変化の力を持っており、人間を助け恵みを施す善神の反面、害をなし人を食う凶悪な鬼類でもあります。 夜叉には男と女があり、男はヤクシャ、女はヤクシーまたはヤクシニーと呼ばれ、財宝の神クベーラに仕えていたといわれています。 この夜叉は、お釈迦さまの説法により、仏法を護持する八部衆の一神となり、毘沙門天(びしゃもんてん)の配下として北方を守護しています。おそらく、信心ある人を守っていることでしょうよ。 ところで、一月十七日、今月今夜のこの月は、曇っていましたっけ。

本願寺出版社「くらしの仏教語豆事典」より転載