地域での活動レポート

東京教区世田谷組善宗寺 「寺子屋みらいin善宗寺」

関東・甲信越2021/08/16
  • Dāna for World Peace

◆子どものためにお寺を"教室"として開放

 「寺子屋みらいin善宗寺」は、客殿を「教室」として、不登校や経済的理由など、生活環境や学習環境に課題のある小・中・高校生を5年前から受け入れています(写真)。学習面では高校卒業を目指し、お寺の活動の手伝いなどを通じた新たな学びや経験、出会いから、子どもたちが自己肯定感を高められるように、というねらいがあります。

 民生委員を約30年務めてきた善宗寺坊守・西垣けい子さんは「国立や私立中学への進学率が7割という地域で、『子ども泣き声通報』がほかの区よりも多い。実際に調査に行くと、ひきこもりの子どもが多い。経済的な理由だけではない場面にも多く遭遇してきた。何とか子どもたちのために」と学習支援活動を模索しました。その中で、一般社団法人「子ども・若者応援団」の行う2つの学習支援「寺子屋」「TERAKOYA」が、会場を借りて開催していることを知りました。その代表、ソーシャルワーカーの竹村睦子さんと会った西垣坊守は「寺子屋という名前なら、ぜひお寺で」と迎え入れました。名称は「寺子屋in善宗寺」となり、2016年4月から活動が始まりました。

 塾長は、公立小学校で校長経験のある古澤昇さん。地域の元教員6人が講師を勤めます。開催は週1回。現在は12人の子どもが登録。コロナ禍以前は毎週金曜日の午前10時から午後8時半までだったが、午後2時から6時に短縮しています。

◆子どもに合わせる「ちょうどの支援体制」

 竹村さんらが提唱するのは、子どもに合わせる「ちょうどの支援体制」。指導方針は子どもと一緒に作る。その日に時間割を決め、英語や国語、数学などを個別に指導していきます。中学で国語教師をしていた講師の松林陽子さんは「どうする?やる?みたいな感じで学習が始まる。そのゆるやかさが子どもたちにとっても、私たち大人にとってもほっとするところ」とほほえみます。大学生ボランティアも、子どもと本当の友だちのように結びつき、生活面は竹村さんらがケアをして、子どもの心の依りどころとなっています。現役の教師が見学に来るケースも増えているとのことです。

 通信制の高校に在籍する男子生徒は「ここ以外の塾は知らないが、広いので勉強するのに集中しやすい。先生との勉強以外にも、友達や大学生とカードゲームをしたり、境内で遊ぶこともできる。2階の静かなところで自習することもできるし、いろんな人が通いやすいと思う」と説明してくれました。

 新型コロナ感染拡大による緊急事態宣言を受けて、2020年4月からの半年間は断続的に休止した期間が多かったが、ここでしびれを切らしたのは子どもたちでした。古澤塾長は「LINEラインで友だちと繋がってはいるが、直接会わないと落ち着かないと、急遽9月の途中から時間短縮で再開した」と語ります。

◆お寺はずっとそのままあり続ける

 貸会場から善宗寺に会場を移したことで、子どもたちの雰囲気が一変したと言います。竹村さんは「貸会場は、その時間以外は全然関係のない場所になってしまうが、お寺はずっとそのままあり続ける。来られなくても、あり続けるところに所属することの心の安定感、ここに自分が居ていいんだという意識が継続する。気持ちの開放と場所の開放、両方保証されているのはとてもありがたい」と話します。

 子どもたちは、同寺や地域のイベントでボランティア活動も積極的に行います。毎年8月の「夏休み水遊び広場」(※2020年と2021年は中止)などの同寺のイベントに、裏方として「寺子屋」の子どもたちが関わります。竹村さんは「子どもたちにとってお寺は大事な場所。だからお手伝いをするのは当たり前の感覚。また、何か役に立ちたいという思いがあるのでは」と子どもたちを見つめます。

 西垣坊守は「お寺ですべてをするのではなく、みんなで協力し合うことが大切。子どもの心理面はソーシャルワーカーにお任せし、教師は門徒や地域のつながりで定年退職された方に声かけすることもできる。子どもたちがここで学んだことで、ここに、この場所にお寺があり、いつでも来ていいんだと感じてくれればと思う。地域の状況で取り組みも変わってくるが、子どものために活動する寺院が1カ寺でも増えてくれれば」と願われています。

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※『本願寺新報』(2021年6月20日号)に同内容を掲載しています