地域での活動レポート

安芸教区山県太田組萬福寺 「廃寺を憩いの場に再生」

中国・四国2021/10/04
  • Dāna for World Peace

◆解散寺院の建物活用し地域に還元

 広島県安芸太田町中筒賀の安芸教区山県太田組萬福寺(上野徹貫住職)は、3年前に解散した地元の本派寺院・今寿寺の本堂などの建物と土地を活用し、宿坊や認知症予防の高齢者サロンを開いています。長年親しまれてきた寺院を新たに地域の憩いの場として再生したものです。上野住職は「ご門徒や地元の方からいただいたお育てを還元できれば」と語ります。

◆旧庫裏で認知症予防サロン

庫裏や本堂を宿坊として帰省者に貸したり、サロンが開かれるのは、萬福寺から10キロほど離れた同町加計の旧今寿寺です。2018年9月に今寿寺が解散した後、「なんとか伽藍だけでも残す道を」という門徒の願いや、両寺が所属する山県太田組内の住職の勧めで、萬福寺が土地建物を取得し、管理を引き継いだ。

 昨年2月に始めた高齢者サロン「オレンジカフェまんぷくじの里」は毎月第3火曜の午後に開かれます。地域の高齢者が集まり、庫裏の客間で認知症予防の体操やお茶の時間を楽しみます。萬福寺は広島市内などで訪問・居宅や通所の介護事業所を運営しており、施設代表者である上野快江坊守が介護のノウハウを生かして、座りながら簡単にできるストレッチなどを教えます。

 取材に訪れた7月20日は近隣の女性9人が参加。新型コロナウイルスの影響でサロンは今年4月以来だったが、快江坊守が「久しぶりですけど、皆さん体操は覚えていますか?」とやさしく声をかけながら、童謡や数え歌にあわせて一緒に身体を動かし、休憩時間にはおやつを楽しまれていました。

◆形を変えても後世に

 今寿寺がこの地に寺基を構えたのは1968年。それまでは萬福寺と近い同町下筒賀の野竹地区にありましたが、63年(昭和38年)の「三八豪雪」の影響で集落が消滅し、この地に移りました。当時の住職家族が最後の離村者を見送って野竹を離れたのは69年。本堂の移築が完了したのは72年でした。上野住職は「野竹からここに移ったご門徒はなく、今寿寺さんは大変なご苦労をしながら護持されてきた。坊守さんも保険の外交員をして私財をなげうって支えておられたと聞く」と話します。

 しかし、2011年には長年病気を患っていた住職が亡くなり、後継者もいなかったことから寺族と門徒が協議して18年9月に今寿寺は宗教法人を解散。ご本尊や仏具は寺から出し、萬福寺が土地建物の管理を引き継ぐことになりました。

 サロン参加者のほぼ全員が別の寺の門徒ですが、「お寺が残ってよかった」と声をそろえます。今寿寺と同じ地区に住む栗栖俊子さんと後東陸子さんは「お寺を閉じると聞いて寂しかったが、萬福寺さんが生き返らせてくれた。元気な限り、サロンには通い続けたい」と話します。また解散時に門徒総代だった佐々木幸男さんも「この本堂は私たちが山(野竹地区)から下ろしてきたという思い入れがあるし、今寿寺さんは家族同然だった。廃寺になって朽ちていくのだけは避けたいと思っていたので、元の門徒は本当に喜んでいる。形を変えても後世に伝えていけることがうれしい」と語ります。

 上野住職は「解散した寺院をどうしていくかは全国的な課題だと思う。私たちは『み教えをつないできた場を残したい』『お念仏の灯火を絶やしたくない』と活用の道を選んだ。このお寺がこれまで支えていただいたお礼の意味も込めて、地域貢献に生かしていきたい」と話されています。

 

お問い合わせは 萬福寺 上野徹貫 電話0826-32-2248

※『本願寺新報』(2021年9月20日号)に同内容を掲載しています。