御正忌報恩講 ご門主法話(ご親教)

本年も、ようこそ御正忌報恩講にご参拝くださいました。
まず初めに、本年1月1日に発生し、最大震度7の揺れを観測した「令和6年能登半島地震」では、家屋の倒壊や火災、土砂災害、道路の崩壊、ライフラインの遮断など、特に被害が深刻な石川県を初めとして、各地に甚大な被害がもたらされました。ここに、このたびの震災で犠牲となられた方々に謹んで哀悼の意を表しますとともに、被災された皆さまに心からお見舞い申し上げます。
被災地では被害の全容が見えない中、多くの方が困難な生活を余儀なくされ、先の見通しの立たない不安な日々を送られていると思います。今後、被災者お一人おひとりに寄り添った、きめ細やかな支援活動が継続して行われることで、皆さまが一日も早く生活を再建され、もとの平穏な日常に戻られますことを願っております。
さて、報恩講は全国から親鸞聖人をお慕いする皆さまがご参拝くださり、そのご遺徳を偲びつつ、ご一緒におつとめをし、お念仏申させていただく尊いご縁であります。このご縁にあたり、親鸞聖人が私たちにお伝えくださった浄土真宗のみ教えをあらためて味わわせていただきましょう。
昨年は、3月より5月までの5期30日間にわたり、親鸞聖人御誕生850年・立教開宗800年慶讃法要をおつとめいたしました。本年は、親鸞聖人がその主著である『顕浄土真実教行証文類(教行信証)』に浄土真宗のみ教えを体系的に著されて800年という年にあたります。
このことは、親鸞聖人が説かれた浄土真宗のみ教えが、800年という長きにわたり、絶えることなく、人々の依りどころとして今日まで受け継がれてきたことを意味します。そして、それは日本だけでなく世界各地へと伝わっています。このように浄土真宗のみ教えは、時代や場所を問わない、普遍性を持った教えであるということができます。
親鸞聖人が明らかにしてくださった阿弥陀さまのおはたらきは、私たち個人の願望をかなえるというものではありません。煩悩を抱え、この世界の縁起や諸行無常といった、ありのままの真実を受け入れることができない私たちを、お浄土というおさとりの世界へと導き、真実に目覚めさせようと絶えずはたらいてくださっています。
阿弥陀さまのおはたらきを聞かせていただくとき、私たちは人間の思慮分別を超えた真実のありようを知らされるとともに、その真実に背く煩悩を抱え、迷いの世界を出ることのできない私の姿に気づかされます。そして、そのような私を見放すことなく、摂め取って必ず救うという阿弥陀さまのお慈悲の心、そのおはたらきに全てをお任せするのが、浄土真宗の信心です。
さらには、阿弥陀さまに慈しまれていると同時に、悲しまれていることを信知するならば、自らの煩悩性・罪悪性を深く悲しみ、慚愧して、それを厭離しようとするのが当然であり、決して自らの煩悩的欲求に無批判に従うということではありません。
それは、これまで自己の執われに無自覚であった者が、執われに縛られている自己であると知らされ、執われを離れようと意識させられ、その意識が毎日の生活に影響を与えるということです。
これからも阿弥陀さまの大慈大悲のおはたらきにお任せし、報恩感謝の思いで日々を過ごしてまいりましょう。
本日はようこそご参拝くださいました。
本願寺新報2024(令和6)年 2月1日号掲載