前門様のお言葉

親鸞聖人七百五十回大遠忌法要御満座を機縁として「新たな始まり」を期する消息

ご消息2012/01/16

 昨年の四月九日よりお勤めしてまいりました親鸞聖人七百五十回大遠忌法要は、本日ご満座をお迎えいたしました。各地から多くの方々にご参拝いただき、六十五日間百十五座にわたるご法要を厳粛にお勤めすることができましたのは、仏祖のご加護と宗祖のご遺徳のおかげであり、御同朋御同行の方々の報恩謝徳のご懇念のたまものと、まことに有り難く存じます。

 顧みますと、ご法要の始まる直前の三月十一日、東日本大震災がおこりました。その後も各地で地震、豪雨など災害が続き、大変な一年となりました。被災された方々に心よりお見舞い申し上げます。法要参拝を楽しみに待ちながら、災害やさまざまの理由で参拝できなくなった方々のことを、忘れることができません。

 地球の歴史を考えます時、自然現象としての地震や豪雨は、数限りなくあったことでしょう。しかし、それが深刻な災害となるのは、人間のあり方、社会のあり方によります。特に、今回の原子力発電所の事故は、自然の調和を破り、後の世代に大きな犠牲や負担を強いることになりました。これは肥大した人間の欲望のもたらしたところであります。

 聖人は、凡夫には清らかな心も真実の心も存在しないとお示しになりました。それは、阿弥陀如来の光に照らされて明らかになる私の姿です。凡夫の身でなすことは不十分不完全であると自覚しつつ、それでも「世のなか安穏なれ、仏法ひろまれ」と、精一杯努力させていただきましょう。阿弥陀如来はいつでも、どこでも、照らし、よびつづけ、包んでいてくださいます。

 本願念仏のご法義は、時代が変わり、社会が変わっても、変わることはありません。しかし、そのご法義が活きてはたらく場である現実の社会は、地域によって異なり、時とともに変わります。ご法義を伝え、広めるための宗門の組織も、社会の変化に応じて変わる必要があります。歴史を顧みて、受け継ぐべき伝統を確かめ、創造的な活動を育てていかなければなりません。本年四月一日から、宗門の体制が改められますのも、時代に即応する営みの一つであると言えましょう。新しい体制のもとで、一人ひとりが抱える課題を大切にし、お念仏を喜び心豊かに生きることのできる社会を目指しましょう。このたびの大遠忌法要が、新たな歩みを進める機縁となりますよう念願いたします。

平成二十四年(二〇一二年) 一月十六日
龍谷門主 釋 即 如