前門様のお言葉

御正忌報恩講  ご門主法話(ご親教)

法話2009/01/15

私が求めるより先に救い
すべての人に開かれた道を示された宗祖

御影堂工事終え大遠忌が近づく

 皆さま、ようこそ御正忌報恩講法要にご参拝になりました。今年もご一緒におつとめできましたこと、まことにありがたく存じます。

 ちょうど10年前に始まりました御影堂の平成大修復工事は、昨年で終了し、今春には完成奉告法要、慶讃法要をおつとめいたします。宗祖には、年に3回、特別の法要の折、お隣の仮御影堂から中央にご動座いただきましたので、情の上からは、宗祖には「お煩(わずら)わせ申した」と感じますとともに、また実務の上でも「大切なお木像を傷付けては大変」と心配をいたしました。

 続いて今年の秋には、宗祖の御廟(ごびょう)であります大谷本廟・西大谷で、大遠忌法要。さらに、各地各都市での行事も計画されています。いよいよ大遠忌の年、2011年から12年が近いことを実感いたします。

人生の迷いに気付かない私

 宗祖親鸞聖人は、ご自身が一途に真実を求め、仏のさとりを求めて歩まれた方ですが、それは他の祖師、宗祖と呼ばれる方々にも共通しているでありましょう。わが宗祖の際立った点は、恵まれた方がさとりを開く道ではなく、すべての人々に開かれた道を、自ら体得され、人々に示してくださったところにあります。

 他力の教えを表面的に捉(とら)えますと、安易な道、怠け者の道のように見えるかもしれませんが、自分自身を省みますとき、あるいは争いを繰り返す人類を考えたとき、すべての人々に向けられた阿弥陀如来の願いの素晴らしさがわかります。それは、世俗的日常生活を送る私を支え、めざめさせ、さらに周りの人々へ、他のいのちへと展開していく可能性をもっています。

 親鸞聖人の教え、浄土真宗の根本は、阿弥陀如来のご本願にあることは申すまでもありません。ご和讃に「如来の作願(さがん)をたづぬれば 苦悩の有情(うじょう)をすてずして 回向(えこう)を首としたまひて 大悲心をば成就せり」(註釈版聖典606ページ)とあります。

 私たち人間は、いつの時代にも、それぞれにいのちにかかわる苦しみやあるいは生活上の不安、不満を抱えて生きています。だからといって、ただちに仏教の修行をしようとか、お寺に参ろうとするとは限りません。

 阿弥陀如来は、すでに、私が求めるよりも先に、私の心を見抜き、救いのはたらきを向けていてくださいます。道に迷ったとき、すぐには迷ったことに気付かないように、私も人生の迷いにはなかなか気付きません。迷いに気付かせ、依るべきところを示してくださるのがみ教えであります。

 お釈迦さまのお言葉である経典、宗祖のお言葉であるみ教えに遇(あ)うとき、言葉を超えて阿弥陀如来の智慧と慈悲のはたらき、南無阿弥陀仏のはたらきが、わが身に届きます。

出来事の意味変わっていく

 ご和讃には「十方諸有(しょう)の衆生は 阿弥陀至徳の御名(みな)をきき 真実信心いたりなば おほきに所聞(しょもん)を慶喜(きょうき)せん」(同560㌻)とあります。浄土真宗の信心とは、南無阿弥陀仏、お名号が、わが身にはたらいていることであります。阿弥陀如来が、私を支え、往生浄土の道を歩ませてくださるとき、日々の出来事の意味が変わってきます。「もったいない」という言葉は、その表現、現れのひとつではないでしょうか。

 人間はもちろん、あらゆるものは、それぞれ大切ないのちをもっている。そのいのちを無駄にしたり、みだりに傷付けては申し訳ない。私が特別の存在ではない、どのいのちも大切だという意味が表されています。

 世の中の争いを見ますとき、多くの場合、私、あるいは私たちは、生きるに値するが、悪人、あるいは敵は、生きる価値がないと見られています。しかし、それでは争いが鎮まることはありません。世界的な経済の混乱の折、弱い者、恵まれない者同士が争っていては、いよいよ悲惨な世の中となります。

門信徒の方々の伝道活動に期待

 最後に、皆さまに感謝とお願いを申します。ご参拝の折、見ていただきましたように、本願寺の境内は、修復を終えた御影堂の周囲でさまざまの工事が行われ、春にはほぼ完成する予定です。多くの方々のご懇念に加えて、公的資金の補助をいただきましたこと、まことにありがたく存じます。

 本願寺が美しくなることはまことにありがたいことですが、宗門全体を考えますとき、維持が困難になったお寺も少なくありません。大遠忌を機縁に、さまざまの事業が進められていますが、門信徒の方々の活動に、地域的な偏りがあるように見受けられます。特にお寺の少ない地域では、門信徒の方々に率先して、聞法に、伝道にと活動していただきたいと期待をいたしております。

 本日のご縁を共にできましたことを喜び、お念仏と共に、これからも1日1日を精一杯過ごさせていただきたいと思います。

本願寺新報2009(平成21)年2月1日号掲載
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