前門様のお言葉

西山別院・覚如上人650回忌延修法要 ご門主法話(ご親教)

法話2004/04/25

「信心正因・称名報恩」
今ここに往生定まる

波瀾万丈の生涯もお念仏一筋 多くの著述で宗祖の心 後世に

 本日は、有縁の皆さまとご一緒に、西山別院におきます覚如上人650回忌延修法要をおつとめすることができました。まことに有り難く存じます。

 覚如上人は、法灯を親鸞聖人、そのお孫さまの如信上人と受け継がれまして、本願寺第三代であります。また、親鸞聖人のひ孫に当たられます。宗祖のご廟の留守職(るすしき)としては、聖人の末娘・覚信尼さま、そのお子さまである覚恵さまに続いて第三代、さらにお寺としての本願寺という意味では、事実上の開創者ともいえましょう。

 また、この西山別院は、覚如上人が創建された久遠寺を引き継ぐものであります。覚如上人のご廟もあります。そして、このご本堂は、本願寺の旧本堂であります。宝暦十年(1760)に現在の阿弥陀堂が建てられましたために、それまでのみ堂がこちらへ移されました。ですから宗門の歴史の上でも大切なご本堂です。また、境内に得度習礼所・教師教修所があることから、宗門の僧侶養成についても、大切な役割があります。

 覚如上人は、宗祖親鸞聖人ご往生の八年後にご誕生になりました。お若い頃には、覚信尼さまや遺弟(ゆいてい)をはじめ宗祖聖人をよく知っている方々がいらっしゃいました。

 覚如上人は、宗祖のお孫さまにあたる如信上人、そして『歎異抄』で有名な唯圓房から教えを受けられ、親鸞聖人の教えやご生涯を後世に伝えるため、宗祖の伝記である「伝絵」、報恩講の由来となった『報恩講私記』、その他いくつもの著作を残して下さいました。

 覚如上人は、親鸞聖人のみ教えを信心正因・称名報恩という形で受け止められ、また平生業成(へいぜいごうじょう)という表現で、今ここに往生成仏が定まることを教えて下さいました。お浄土でさとりを開くのは、この世のいのちが終わったときですが、その出発点は今ここにある、今ここで、阿弥陀如来さまのおこころをいただくことで、往生成仏が解決されるということが、信心正因の意味であります。

 阿弥陀如来さまのおこころは、南無阿弥陀仏となって、今私のところに届いていますから、私は南無阿弥陀仏とお念仏申す身となります。お念仏は手段ではなくて結果、成果であるといえましょう。阿弥陀如来さまを讃えて生きるということです。

 覚如上人のご生涯は、伝記を読みますとよくわかりますが、まさに波瀾万丈でした。しかも覚如上人が目指されたことは、百年以上のちの蓮如上人によって、ようやく実現されました。それだけに、お念仏一筋の道を歩もうとされた切実なお気持ちが感じられます。

 今日の私たちの多くは、外見上毎日同じようなことを繰り返して過ごしていますが、内面には深刻ないのちの課題を抱えていたり、尽きることのない心配の種を抱えていることが少なくありません。深刻になるほど冷静さを失って、占い、呪(まじな)いに惹(ひ)かれたり、責任を外に押しつけたりしがちです。それら一つひとつを聞法の縁として、阿弥陀如来さまのおこころを味わい取り組んでいくところに、お念仏の生活が深まります。自分で受け止める以外にないことは、阿弥陀如来さまのお慈悲に支えられて受け止める。他の人と協力して解決できそうなことは、信頼できる誰かに相談してみるということでありましょう。

 逆にいいますと、私が信頼される人間になれるかどうかを、仏法に照らして顧みることも大切だと思います。そして、うれしいこと、よいことがあったときには、他の人と分かち合うことができるかどうか思いめぐらしたいものです。

覚如上人の『口伝鈔』という書物には、
 「別離等の苦にあうて悲歎(ひたん)せんやからをば、仏法の薬をすすめて、そのおもいを教誘(きょうゆ)すべき事」
 (註釈版聖典906頁)
という一章があり、
 「弥陀の浄土にまうでんにはと、こしらへおもむけば、闇冥(あんみょう)の悲歎やうやくに晴れて、摂取の光益(こうやく)
 になどか帰せざらん」(同907頁)
あるいは、
 「かなしみにかなしみを添ふるやうには、ゆめゆめとぶらふべからず」(同907頁)
と、悲しみをさらに増すような慰めをしてはよくないというお言葉があります。生活の上に仏法を味わうということをくみ取ることができます。

 覚如上人は晩年に
「憑(たの)むぞよ 老木の花は 散るとても 咲き続くべき 万代(よろずよ)の春」
と歌われ、仏法がいつまでも続くように、宗門、お寺が発展してほしいと願われました。

 このたびのご法要をご縁に身近な課題から世界の平和まで、いのちに関わる課題に関心を深め、仏法を受け継ぐ思いを新たにいたします。


ご親教本文/本願寺新報2004年5月10日号より
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