妙好人に学ぶ-わが身を振り返り、ますます聴聞を-
長岡 岳澄
中央仏教学院講師 兵庫県姫路市・金蓮寺衆徒

現代にはいない?
妙好人(みょうこうにん)、この言葉は、もともとは『仏説観無量寿経』に「もし念仏するものは、まさに知るべし、この人はこれ人中(にんちゅう)の分陀利華(ふんだりけ)なり」(註釈版聖典117ページ)と、念仏者を分陀利華、蓮華(れんげ)の中でももっとも高貴とされる白蓮華(びゃくれんげ)と喩(たと)えられていることによります。
さらに、この言葉を七高僧のお一人である善導(ぜんどう)大師が解釈され、念仏者を、人中(にんちゅう)の好人(こうにん)、妙好人(みょうこうにん)、上上人(じょうじょうにん)、希有人(けうにん)、最勝人(さいしょうにん)と五つの名でほめたたえられ、ここに「妙好人」という言葉が出されます。
真実の信心を得た念仏者をほめたたえる言葉として「妙好人」が出てきますが、それとともに、真宗門徒の中でも特に篤信(とくしん)の念仏者を指して「妙好人」という言葉が使われるようになってきます。
これは、江戸時代の仰誓和上(ごうせいわじょう)が見聞された篤信の念仏者を『妙好人伝』という書にまとめられたことに始まり、以来、大和(やまと)の清九郎(せいくろう)さん、讃岐(さぬき)の庄松(しょうま)さん、因幡(いなば)の源左(げんざ)さん、石見(いしみ)の才市(さいち)さんなどが有名な妙好人として知られています。
妙好人のお話をうかがうとき、「ありがたい念仏者の方がおられたのだな、私も先徳のように阿弥陀さまのおはたらきを味わっていきたい」という思いを抱くとともに、どこかで、「妙好人は昔の人」という思いを抱いていました。
私は平素、京都にある中央仏教学院に勤めています。学院には、通学して仏教・真宗の教えやおつとめを学ぶ、いわゆる全日制の学校とともに通信教育があり、私は主に通信教育に携わっています。この通信教育に携わる中で「妙好人は昔の人」という思いが変わってきました。
通信教育は、家庭にいながら、仕事をもちながら、仏教・真宗について学んでいくという教育制度です。親鸞聖人ご誕生800年、立教開宗750年を機縁に1972(昭和47)年に創設され、以来45年、3万5000人以上の方が入学されています。
自分の都合が横行
通信教育は、配布される教材を通して、受講生がそれぞれに学びを進めていきますが、その教材の中に、毎月、受講生のもとに届けられる『学びの友』という小冊子があります。その第1号(1972年9月)の中に「忙しいので勉強ができない 忙しいので手紙が書けない 忙しいので掃除ができない なるほど それじゃあ多分 忙しいので死ねないだろう」という法語が掲載されています。
いざ仕事をはじめたり、家庭を持ったり、子育てがはじまったりすると、学校に通って勉強するということが非常に難しくなります。そういった中で、学びたいという思いを持ち、実際に通信教育に入学するという行動を起こされている方がおられます。まして、資格や趣味の勉強ではなく、仏法、親鸞聖人の教えの学びです。
『蓮如上人御一代記聞書(ききがき)』に上人は、「仏法には世間のひまを闕(か)きてきくべし。世間の隙(ひま)をあけて法をきくべきやうに思ふこと、あさましきことなり」(同・千280ページ)とのお言葉を遺されています。
真剣に仏法を聞いていくことは本当に難しいことかもしれませんが、仕事を持ち、家庭を持ち、忙しい中で時間を作り、仏法を聞いていこうとする方がおられます。
こうした通信教育の受講生と出会い、交流を深める中で「妙好人は昔の人」という思いはすっかり薄れ、今の時代においても確かに妙好人はおられるという思いが強くなってきました。
それぞれにさまざまな思いを抱いて受講されていますので、一概には言えないかもしれませんが、少なくとも、私には今の時代にも妙好人はおられる、そのように感じられます。
ただ、妙好人との出会いは「篤信の念仏者がおられる。有り難いことだ」という話では終わりません。
仰誓和上も、大和の清九郎さんと会われ、「誠に我が身のあさましきことも実に思い知られて、かかる広大の御恩を何とて喜ぶ心のなきやと恥(はず)かしみ」と述べられています。はたして私自身はいかほどに如来さまのおはたらきをしっかりと聞けているのであろうかと恥じ、自省する思いが湧いてきます。
通信教育だけでなく、お念仏をよろこばれている方々がたくさんおられます。有り難く思うとともに、わが身を振り返り、ますますの聴聞を重ねてまいりたいと思います。
(本願寺新報 2016年12月20日号掲載)
本願寺新報(毎月1、10、20発行・7/10、12/10号は休刊)に連載中の『みんなの法話』より
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