読むお坊さんのお話

いま仏さまといっしょ

横山 大悟(よこやま だいご)

岐阜・專琳寺住職

きれいに撮ってや!

 阿弥陀さまはとっても素晴らしい仏さま。私のいのちを常に思い、いのちの行く末を案じてくださる仏さまです。私の苦しみ・悩みを他人事とせず、私の悲しみを我が事とし、このいのちの痛みを解決しようとはたらき続ける仏さま。

 そんな阿弥陀さまが私は大好きです。

 ところで、「いらっしゃ~い!」で有名な落語家、と言えば桂三枝さんです。その三枝さんの実際にあった話なのですが、ある観光ツアーの方々と一緒に記念写真を撮ることになったそうです。

 誰もが三枝さんの近くで写真を撮ってもらいたいと、奪い合うように周りを囲んで並んだのですが、全員並ぶものですから三枝さんが、「誰がお写しになるんですか?」と尋ねると、「アッ!そやー」。それまで誰も気付かなかったのです。

 ちょうど通りかかったお兄さんに、「ちょっと兄ちゃん、撮ってんか!」と、5個も6個もカメラを渡して撮ってくれとせがむのです。

 おばちゃんのパワーに翻弄(ほんろう)されて、「それでは撮りますよ」と声を掛けると、「きれいに撮ってや!」と大きな声。必ずこういう方がおられますが、「それは無理やわ!」とツッコミ。

 するとAさんが「ちょっと待って」と後ろを向いて、「Fさん。三枝さんの横に座らせてもらいーな」と言うのです。振り向くと、その中で一番年長の80歳ぐらいの方がおられたのです。

 「三枝さんの横で撮ってもらい!記念やから」
 ちょうど横には30歳前ぐらいの、その中で一番若い女性が座っていたのです。
 「あんた後ろに行きぃ!Fさん。三枝さんの横にきい!」
 Aさんが勝手に席替えをするんです。
 するとFさんは気をつかって「私みたいな年寄り、三枝さん嫌がりはるがなぁ」と謙遜(けんそん)されました。その時、
 「なに言うてんねんな! 今より若い時はもうないねんで!」
 すかさずAさんが言ったのです。
「今より若い時はもうないねんで・・・・・・そや、今が一番若い。この言葉に感動した」と、三枝さんが語っておられました。

 私たちは歳を多く重ねると、何だかいのちが減ったような、残りわずかの衰えたいのちになったような感覚が強くなり、気力も衰えがちです。でも、「今が一番若い。今より若い時はもうない」と言われると「今しかない。今やれることをやろう!」と、今しかない自分のいのちに気付かされるような気がします。

逃げる私を追いかけて

 この話を聞かせていただいて、私はふと阿弥陀さまのことを思ったのです。阿弥陀さまはいつでも・どこでも・どなたにもはたらき続けている仏さま。つまり、今・ここで・この私にはたらいていてくださる仏さまです。

 『仏説観無量寿経』というお経に、「摂取不捨(せっしゅふしゃ)」というお言葉があります。親鸞聖人はこのお言葉の意味を「ものの逃ぐるを追はへとるなり」「ひとたびとりて永く捨てぬなり」とお示しくださいました。

 阿弥陀さまから、せっかく救いのおはたらきが与えられていても、そのお心に背き、逃げ出す私がいるのです。そのいのちを放ってはおけない、必ず救うぞと追いかけて、捕まえ放さない仏さま、ということです。

 私は「逃げる者を捕まえるのは一筋縄ではいかない大変なご苦労をなさっておられるが、ひとたび捕まえてしまえば、後はさほどの苦労はなかろう」と、どこか心の中で思っていたのです。でもふと思い直してみれば、捕まえた後でも今、今、今・・・・・・と煩悩まみれの私を、阿弥陀さまは一瞬一瞬に持てる力をすべて、惜しげもなく与え続けて、はたらいてくださるのです。

 まるで、病の子どもを抱えた親のように、ぬぐい払う額の手ぬぐいや、何度も蹴る布団も、気を緩めることなく夜通し看病するように、このいのちにはたらき続けてくださるのです。今、今、今のこの一瞬を阿弥陀さまと共に歩ませていただけるこの身をあらためて思いますと、我がいのちでありながらも尊いこと、頼もしいことであるなぁと、阿弥陀さまのおはたらきを味わわせていただきます。

 まるで、病の子どもを抱えた親のように、ぬぐい払う額の手ぬぐいや、何度も蹴る布団も、気を緩めることなく夜通し看病するように、このいのちにはたらき続けてくださるのです。今、今、今のこの一瞬を阿弥陀さまと共に歩ませていただけるこの身をあらためて思いますと、我がいのちでありながらも尊いこと、頼もしいことであるなぁと、阿弥陀さまのおはたらきを味わわせていただきます。

(本願寺新報 2010年11月01日号掲載)

本願寺新報(毎月1、10、20発行・7/10、12/10号は休刊)に連載中の『みんなの法話』より

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