聞く出遇(あ)い -遇いがたくしていま遇うことを得たり-
米田 順昭
布教使 広島県廿日市市・最禅寺住職

知らないはずが
一昨年、ご門徒の96歳のおばあさんが往生されました。ご主人は20年前にご往生になっていましたので、おばあさんは毎月、月忌(がっき)参りをされていました。耳が遠くなってからは、私のおつとめの声が聞こえにくいようでしたが、それでも大きな声で一緒におつとめされていました。
お寺のご法座に参られたときには、ほかのご門徒とおつとめの声がずれていても、最後までしっかりとおつとめされていたことが思い出されます。
お家は4世代の同居で、月忌参りはご家族と一緒にお参りされます。ひ孫さんも3人おられ、時間が合うときは、お孫さんやひ孫さんもそろってお参りされる、そんなご家庭です。
おばあさんのご葬儀が終わり、七日ごとのお参りをさせていただいていたときのことです。お仏壇近くのおばあさんの写真のそばに、1枚の絵が飾ってありました。ひ孫の、ひなたちゃんが描いた絵で、両手にお花を持って笑っている姿の絵です。
「お葬式の時、棺(ひつぎ)の中にも同じ絵があったな。おばあさんの絵かあ。小学1年生にしては上手に描けてるなあ」と思っていました。すると、ご家族の方が、「それ、実はおじいさんなんですよ」とおっしゃいました。
私は、それは失礼しましたと思いながらも、不思議でした。おじいさんは20年前に亡くなられていますので、ひなたちゃんはおじいさんのことは知らないはずです。
「なぜ、おじいさんなのですか」と尋ねると、「おばあさんは、いつもおじいさんの写真をそばに置いていましてね。それを見ていたんでしょうね。仏間にも写真が飾ってありますし、おばあさんや家族みんなが話すおじいさんの話を聞いていたのでしょう」とお話しくださいました。
仏さまの世界では、聞いて理解することを「聞見(もんけん)」、眼(め)で見て明らかに信ずることを「眼見(げんけん)」といいますが、私たちも、お姿を直接見なくても、お話をお聞かせいただく中に出遇(あ)う世界があるのではないでしょうか。ひなたちゃんも、家族のみんなが話すおじいさんのことを聞いて、おじいさんに遇っていたのでしょう。
親さまのご苦労
ご法座というのは、明けても暮れても阿弥陀さまのお話、阿弥陀さまが私に向けて願いを発(おこ)されたお心こそが肝要(かんよう)だとお聞かせいただいたことがあります。
ご講師が高座の上に座り、朗々と阿弥陀さまのご苦労を、このように弁じてくださいました。
「一願(いちがん)積(つ)んでは衆生のため、一行(いちぎょう)はげんでは衆生(しゅじょう)のため、衆生のためなら、この弥陀は、こおる氷(こおり)もこおらばこおれ、さか巻く波も立てば立て。八寒紅蓮(はちかんぐれん)の氷の中も、焦熱無間(しょうねつむけん)の炎の中も、衆生一人弥陀一仏(いちぶつ)。実の子じゃもの親じゃもの、八万由旬(ゆじゅん)燃(も)えさかる、炎の中に飛び込んで、血けむりあげて泣くやつを、抱いてかかえて摂取(せっしゅ)して、蓮華のうてなに乗せあげて、にっこり笑う顔見るまでは、引くに引かれぬ親じゃぞよ。憂(う)いさつらさは弥陀がして、うまいところを衆生のものと、超世(ちょうせ)の悲願成就して、助けたもうが弥陀じゃぞよ~」
私たちには、阿弥陀さまのお姿は見えません。しかし、お釈迦さまが阿弥陀さまのお話をしてくださいました。多くの高僧方が阿弥陀さまのお徳を讃(たた)えられました。
親鸞さまは阿弥陀さまのお心が聞けた不思議を「遇(あ)ひがたくしていま遇ふことを得たり、聞きがたくしてすでに聞くことを得たり」(註釈版聖典132ページ)と慶ばれておられます。私たちも、今、阿弥陀さまのお話しを聞くことができます。阿弥陀さまのご苦労を聞き、味わわさせていただくことができます。そこに阿弥陀さまに出遇える人生があるのです。
ひなたちゃんの絵は、おばあさんが亡くなる前、ご自宅で看取られている時に描かれたものでした。家族の方が慌ただしくしている姿を、ひなたちゃんなりに見ていたのでしょう。
また、おじいさんの口元には〝吹き出し〟が描かれていて、そこに「すき」とありました。ひなたちゃんは、おばあさんに、おじいさんもおばあさんのことがきっと好きだよ、おじいさんがいるから安心だよ、と言いたかったのでしょう。
私はその絵を見ながら、阿弥陀さまも私に「大丈夫。私がそばにいるよ」とおっしゃってくださっているのかなあと味わわさせていただきました。
(本願寺新報 2019年01月10日号掲載)
本願寺新報(毎月1、10、20発行・7/10、12/10号は休刊)に連載中の『みんなの法話』より
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