読むお坊さんのお話

仲間と歴史と無常 -限りある命をいかに生きるかを問うみ教え-

竹本 崇嗣(たけもと たかし)

布教使 愛知県刈谷市・刈谷布教所

「信頼」が欲しい

 スイレン鉢をのぞき込むと、その水面に桜の花びらを見つけました。首をかしげたのは、周囲には桜がないからです。どこから飛んできたのか、そしてこの鉢の中へ落ちるには、どれほどの巡りあわせを経てのことか。広島県に生まれた自分が今は愛知県にいる不思議と、一枚だけで浮かぶ花びらに心細さをかき立てられます。そして孤独を肴に飲むお酒がいっそうおいしく感じられるのでした。

 都市開教の拠点として布教所を構え、地元の東海教区海幡組(かいばんそ)では布教のご縁をいただいています。年明けに報恩講を営むお寺でお取り次ぎを終えた後、三が日早々の出講に対して「すまなかったね」というご住職の言葉を受け、坊守さんがおっしゃいました。

 「竹本さんは身内と同じだからいいのよ」

 その時はお供え物のお下がりと、坊守さんお手製のキンカン酒で両手がいっぱいで、受け答えもできず帰路につきました。運転しながら先ほどの言葉をふと思い出し、うれしくて身ぶるいしたことを忘れられずにいます。

 布教使どうしで「報恩講のご縁をいただいた」と話すと、「年に一度の大切なご縁だから、竹本さんよりもしっかりご法義を伝えてくださる方にお願いすればいいのにね」と言われます。私も「まったくもってその通りだ」とうなずくと同時に、「み教えをよろこぶ仲間だと、信頼してくださっているのかなぁ」とも思うのです。布教所を開所する時、欲しいものを問われて「信頼ですね」と答えた願いが、実現していく過程を実感できたような気がして、それがうれしかったのです。

 仏法で仲間と言えば「僧伽(そうぎゃ)」が思い浮かびます。出家・在家を含めた教団を指す言葉で、帰敬式(ききょうしき)(おかみそり)を受式する際に唱える「三帰依文(さんきえもん)」では仏教徒が信じ、依りどころとするべき「仏・法・僧」の一つに挙げられます。「三宝(さんぽう)」とも敬われる「僧」とは、特定の個人を指してはいません。迷いの世界を生きる者どうしが、聞かせていただいた仏の教えのもと、互いに敬い助けあう姿を「僧伽」とするなら、その一員としての実感を得ることは何よりもこころ強く感じられるのではないでしょうか。

気づかされる真実

 愛知県は戦国武将ゆかりの地でもあり、特に織田信長・豊臣秀吉・徳川家康は「三英傑」として、その活躍を顕彰する行事が県内各地でとり行われます。昨今では戦国時代を舞台にした書籍やドラマの中で、三英傑と10年間にわたって対立していた浄土真宗教団の様子が描写されることも増えたように思われます。

 多様な解釈がなされていて興味深くはありますが、一昔前にはほとんど作中に登場しないか、簡単な説明ですまされることが多かったのを思うと、いかなる変化があってのことかと想像がふくらみます。

 三英傑と浄土真宗教団、それらを取り巻く戦国大名や諸外国との関係など、思い通りに生きられない苦しみを抱えた人々の姿は、現代と変わりません。しかし、浄土真宗の僧侶として自らの所属を定めている私は、どうしてもそれを中心にしてものを見てしまいます。つまり「織田は討たれ、豊臣は滅び、徳川は絶えた。しかし、浄土真宗は現代に続いている」と。

 孤独な中年のたわ言です。「さすが我(われ)らが浄土真宗やでぇ」などと気炎をはきながらお聖教(しょうぎょう)を開くと、次のご文(もん)が現れました。

 「命あるものは必ず死ぬという無常の道理は、すでに釈尊が詳しくお説きになっているのですから、驚かれるようなことではありません」
 (現代語版『親鸞聖人御消息』60ページ)

 思い違いに気づかせてくださる、穏やかなお声が聞こえてきそうです。

 出会った者は別れ、手に入れた物は失われ、生まれたのだから死ぬ。生滅変化(しょうめつへんげ)しないものはないとする「諸行無常(しょぎょうむじょう)」は仏法の柱です。そして仏法は自らを特別扱いしません。伝える者が絶えたなら、仏法も滅ぶのです。

 すべて儚(はかな)く消え失(う)せてゆく。そのように知らされるからこそ、今ひと時の出会いがことさらに愛(いと)おしく、また慈しむことができるのではないでしょうか。僧伽(そうぎゃ)という宝を、次に続く者のために守り伝えたいと願うのではないでしょうか。「無常」のお示しは、限りある命をいかに生きるか、どのようなみ教えに親しみ、依りどころとするかを問いかけてくださっていると聞かせていただきました。

(本願寺新報 2019年04月20日号掲載)

本願寺新報(毎月1、10、20発行・7/10、12/10号は休刊)に連載中の『みんなの法話』より

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