読むお坊さんのお話

煩悩にさえぎられても -すべてのいのちを平等に見る仏さま-

兒玉 智文(こだま としふみ)

京都市・文相寺住職

いのちをいただく

 以前、近くのご住職に薦(すす)められて、「いのちの食べかた」という海外映画を観(み)ました。

 内容は、野菜や果物などの大量生産の様子や、牛・豚・ニワトリ・魚などを育て、機械化や流れ作業によって食肉にする様子が、ナレーションもなく、ひたすら映し出されるというドキュメンタリー映画でした。

 「いのちをいただく」ということの重大さを痛感するとともに、そうした食肉を何の意識もなく、時には文句を言いながら食していたということに気づかされました。

 「罪悪深重(ざいあくじんじゅう)の凡夫(ぼんぶ)」「地獄必定(じごくひつじょう)」などという言葉を日頃から口にしている私ですが、あらためて、その意味を深く考えさせられたことでした。

 ところで、私のお寺では、野良ネコが出入りしてフンをするので困っています。そんな中、毎月お参りするお宅に行った時のことです。その家の方は、野良ネコの保護をされている方で、ネコを保護し、自ら引き取ったり、引き取り先を探したり、去勢・不妊手術をして戻したり、野良ネコと住民とのトラブルを回避するために活動されています。

 その方の活動を聞かせていただくと、野良ネコをただ邪魔者扱いしているだけの自分がとても恥ずかしく感じました。よく考えると、近所には土があるところがほとんどなく、ネコも用を足すのに困っているのかもしれません。

 またある日、そのお宅にお参りした時、外来種のカメの駆除の話になりました。私が住んでいる町の淀城跡のお堀には、以前たくさんの蓮の花が咲いていましたが、ある年に蓮の花が咲かなくなりました。原因を調べると、全国的に問題になっている外来種のアカミミガメによる食害だということがわかり、駆除することになったようでした。

 小さなお堀ですが、以前は蓮の花がきれいに咲いていたので、また昔のようになったらいいなと思っていました。しかし、その方は「カメを駆除するなんて、かわいそう。アカミミガメは悪くないのに」とおっしゃったのです。

 アカミミガメは、人間の都合で外国から連れてこられ、ペットとして飼われていたけれど、大きくなって世話ができず、お堀に捨てられ、そして繁殖し、ただ生きるために蓮を食べていただけなので、アカミミガメに罪はないとおっしゃるのです。

家族同様のいのち

 お釈迦さまのご臨終の様子が描(えが)かれた「釈迦涅槃(ねはん)図」では、そばで泣いているお弟子たちの周りに、象や馬、鹿、虎、猿、鳥、亀、蛇などの動物たちが悲しむ姿が見られます。さらには、沙羅双樹(さらそうじゅ)の半分の木の葉が黄色に描かれていて、これは樹木が悲しんで枯れてしまったことを表したという解釈もあります。

 親鸞聖人は「一切(いっさい)の有情(うじょう)はみなもつて世々生々(せせしょうじょう)の父母(ぶも)・兄弟(きょうだい)なり」(註釈版聖典834ページ)とおっしゃっています。つまり、すべての生きとし生けるものは、何度も生まれ変わりするうちに家族同然になるということです。仏教では、当然ながら人間のいのちに優劣はありません。そして、動物や植物のいのちも同じです。

 私は仏教をいつも大事に思っているつもりでしたが、普段の生活では全く忘れていました。生きとし生けるものを家族とみるような仏教の考え方ではなく、まさに自分勝手な価値判断により、すべての食事を当たり前としていただき、自分にとって都合の悪い野良ネコやアカミミガメを「悪」としていました。

常に私を照らす光

 「正信偈(しょうしんげ)」には、
  極重悪人唯称仏(ごくじゅうあくにんゆいしょうぶつ)
  我亦在彼摂取中(がやくざいひせっしゅちゅう)
  煩悩障眼雖不見(ぼんのうしょうげんすいふけん)
  大悲無倦常照我(だいひむけんじょうしょうが)
とあります。

 私たち、極重の悪人は、ただお念仏すべし。私もまた阿弥陀仏の救いの中にあるけれども、煩悩によって眼(まなこ)をさえぎられて真実を見ることができない。けれども、阿弥陀さまの慈悲の光明は、決して私を見捨てることなく、常に私を照らしてくださっている、ということです。

 人間と動植物を同じ平等のいのちとみる時、地獄に行くしかない、どこまでも愚かな私の姿が明らかになってきます。

 しかし、その極重悪人の私、救われようのない私が、もうすでに阿弥陀さまの光明、救いのはたらきの中にあるのです。

(本願寺新報 2019年09月10日号掲載)

本願寺新報(毎月1、10、20発行・7/10、12/10号は休刊)に連載中の『みんなの法話』より

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