読むお坊さんのお話

ご恩報謝のお念仏 -絶えずよび続けてくださっている阿弥陀さま-

林 龍樹(はやし りゅうじゅ)

熊本県南関町・西圓寺衆徒

祖母の姿

 「如来さまのお給仕(きゅうじ)に参りました」。私の祖母がお寺に嫁いで来た時、祖父にこう言ったそうです。

 祖母は、私が2歳の時に往生したため、ほとんど記憶に残っていません。唯一記憶にあるのは、手を引かれて散歩していた途中、祖母がくれたおまんじゅうを一緒に食べたことです。なぜか、あの時の祖母の笑顔は、いまだにはっきりと覚えています。

 私のお寺は熊本県の北部、緑に囲まれた田舎町にあります。お寺の下を流れる川から時折、蛍(ほたる)が飛んでくるような所です。祖母は隣町のお寺からお嫁に来て、私の父を含め兄弟3人を育てました。そんな祖母の日課は本堂でのお朝事(あさじ)で、毎朝欠かさず5時にお仏飯(ぶっぱん)をお供(そな)えし、阿弥陀経をおつとめしていたそうです。

 父の話によると、当時の生活は決して楽なものではなく、学校での昼食にも困るほど経済的に厳しかったそうです。そのため祖母は着物が破れては修繕し、同じ着物を長く着ていました。くたびれた着物を着た祖母を気の毒に思った父は、買い物に行く祖母に、自分が着るものを購入するよう何度も勧めたそうですが、祖母が毎回買ってくるのは、仏さまにお供えするたくさんのお花だったそうです。

 そんな祖母が仏さまのお給仕を日々行っていた本堂でしたが、老朽化が進み、調査の結果、倒壊の危険性もあるとわかりました。そこで建設委員会が設けられ、このたび本堂を再建することになりました。しかし、それは並大抵のことではありません。体力的にも経済的にも多くの方に大きな負担がかかります。

 ある日のこと、お寺での法要の後、残ったご門徒がお寺の現状についてお話をされていました。これまで何度も会議を重ね、多くの方のご尽力で少しずつ現実のものとなった本堂の再建ですが、この日も楽観的な話ばかりではありません。ところがその時、私が小さい頃からお世話になっていた花火屋のおじいさんがおっしゃいました。

 「まあ、生活は大変ばってん、考えてみっと三百年、四百年にいっぺんのご縁にあわせてもろうたったいな。ありがたかことばい。なんまんだぶ、なんまんだぶ...」

 その時、私はハッとしました。そのおじいさんにとって、本堂の再建はありがたいことだったのです。それはなぜか。そのおじいさんのお姿を見てはっきりとわかりました。

 「ありがたかことばい。なんまんだぶ」
 おじいさんはそっとお一人阿弥陀さまに向かって手を合わせておられました。

仏さまのはたらき

 阿弥陀さまは、この迷いの世界で自身が迷っていることすら気づいていない私に、絶えずはたらき続けてくださっています。物事を正しく見ることができず、欲に欲を重ね、そのことが自身を苦しめていることにも気づいていない私を憐(あわ)れみ、「かならず救う、われにまかせよ」と絶えずよび続けてくださっています。

 親鸞聖人は「正信偈」の中で、「弥陀仏(みだぶつ)の本願を憶念(おくねん)すれば、自然(じねん)に即(そく)の時(とき)必定(ひつじょう)に入(い)る。ただよくつねに如来の号(みな)を称(しょう)して、大悲弘誓(だいひぐぜい)の恩を報(ほう)ずべしといへり」(註釈版聖典205ページ)とおっしゃいます。

 阿弥陀さまのご本願を信じるならば、自(おの)ずからただちに、必ずお浄土へと生まれさせていただく仲間に入れてくださる。そして、このように煩悩を抱えたままの私を、人としての命の縁が切れたとき、必ずお浄土へと生まれさせ、仏とならせてくださる。なんとありがたいことか。ただただお念仏申すばかりである、と。

 称(とな)えることで救われるのではなく、今、この時も、この私を救おう救おうとはたらき続けてくださっている、そのことへの感謝からこぼれるお念仏でした。

 おじいさんは続けてこうおっしゃいました。

 「もうすぐ連れていってもらいますばってん、そん前にこんくらいのことはさせてもらわんば」

 もちろん、阿弥陀さまは私にこうしなさい、ああしなさいとおっしゃる仏さまではありません。ややもするとすぐに背を向けるこの私を、そのまま、ありのままに包み込んでくださいます。だからこそ、おじいさんはせめてこれくらいのことはさせてください、との思いをお話しになったのでしょう。

 私の中で、そのおじいさんの姿が祖母の姿と重なりました。まるで私もその場に居合わせたように、毎朝本堂でお朝事をする祖母の姿がありありと浮かんできました。その時の祖母の顔は、一緒におまんじゅうを食べた時と同じ優しい笑顔でした。

(本願寺新報 2019年10月01日号掲載)

本願寺新報(毎月1、10、20発行・7/10、12/10号は休刊)に連載中の『みんなの法話』より

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