読むお坊さんのお話

阿弥陀さまのまなざし -見捨てることができない真実のはたらき-

井上 慶永(いのうえ けいえい)

布教使 新潟市西浦区・妙光寺住職

もとはハチの羽音

 みなさん、ドローンをご存じですか? 元来はハチのブーンという羽音を表す言葉でしたが、現在では遠隔操作や自律式の無人航空機を指す言葉として定着しています。

 ドローンは軍事目的で開発が進みましたが、現在では商用ドローンも開発され、さまざまな分野で利用されています。ドローンの中には荷物を運べるものもあり、山間部の過疎地へ荷物を配達したり、災害で道路が寸断された被災地へ医療品などの緊急物資を運んだりすることもできるそうです。

 一方、高性能カメラがついたドローンもあり、時にはこれを使って盗撮したり追跡したり、悪用される危険もあります。ドローンの是非は使い方次第ということでしょう。

 ドローンなんて私には関係ないと思われている方もおられるでしょうが、知らず知らずのうちにドローンが私たちの生活に影響を与えています。一番わかりやすいのはテレビの映像です。

 例えば観光地の特集番組を見ると、観光地を紹介するリポーターの姿を映していた画面が徐々に上からの映像に変わり、最後には空から建物や景色の全景を映し出すというシーンをご覧になったことがあると思います。ちょっと意識してテレビを見ると、そのような映像はよく流れています。私たちが実際に見ている世界から鳥の視点に広がるという感じです。おかげで、今まで見ることのできなかった視点から美しい建物や景色を見ることができます。その映像が美しすぎて、実際に観光地に行っても同じ目線で見ることができず、がっかりすることもあるほどです。

 私たちが実際に見たり聞いたり、経験できることは限られています。テレビや新聞、インターネットで情報を得て疑似体験をしたとしても、その情報も発信者の主観や意図を反映していますから、やはり全てを見たわけではありません。同じ情報をもらっているのに、人によって認識が違うこともよくあります。

 でも、私たちは自分の認識が間違いないと自信を持っていればいるほど、他人の認識を聞いても「それは間違っている」と切り捨てがちです。一方で自分の視点に自信がないと、他人の視点を無条件に信用してしまうこともあります。

 どちらにしても、自分の知識や価値観、または他人の肩書きや多数の意見などをあて頼りにして、その認識が正解だと信じ込んでしまうのが私たちではないでしょうか。

煩悩具足の凡夫

 阿弥陀さまは、「智慧のまなこ」をお持ちだといわれます。智慧のまなことは、ありのままに真実を見抜くまなこのことです。そのまなざしは、まるでドローンのように人の視線も鳥の視線も思いのままです。それだけにとどまらず胃カメラが私の体内を映し出すように、阿弥陀さまのまなざしは私の内面に隠された本性にもそそがれます。

 阿弥陀さまのまなこには、私たちが自分や信頼する人の見ている世界に執着してしまい、損得や勝ち負けに振り回されている「煩悩具足の凡夫」の姿が映っています。そんな私たちが作り上げている世界は、戦争や飢饉(ききん)が止(や)まず、邪悪な思想がはびこり、欲や怒りがうずまき、悪事が横行し、いのちの輝きが乏しくなっていくそうです。そのような世界のことを「阿弥陀経」や「正信偈」には「五濁(ごじょく)」と示されているのです。

 親鸞聖人は「正信偈」に、「五濁悪時(ごじょくあくじ)の群生海(ぐんじょうかい)、如来如実(にょらいにょじつ)の言(みこと)を信ずべし」(註釈版聖典203ページ)と示されました。

 「五濁の世界に生きる私たちこそ、お釈迦さまが教えてくださる真実のみ教えに出遇(であ)わせていただきましょう」とのお勧めです。

 真実のみ教えに出遇うとは、「阿弥陀さまのはたらき」に出遇うということです。

 阿弥陀さまは、智慧のまなこで私を「煩悩具足の凡夫」と見抜かれました。欲や怒りを振り回し、自分とは違う視点を否定し、そうやって周りを傷つけ自分も傷つき、五濁といわれる現代社会に苦悩を抱えて生きる私たち。このまま損得と勝ち負けに終始する人生を送っては地獄で苦しみ続けるだけ。

 そんな私をほっておけない、見捨てるわけにいかないと、救いのはたらきを届けてくださるのが阿弥陀さまなのです。そのはたらきが「ナモアミダブツ」のお念仏となって私たちに届いてくださるのでした。

 ドローンが今までなかった視点を開いてくれたように、お寺の法座でみ教えを聞かせていただき、阿弥陀さまのはたらきに出遇わせていただきましょう。

(本願寺新報 2020年01月10日号掲載)

本願寺新報(毎月1、10、20発行・7/10、12/10号は休刊)に連載中の『みんなの法話』より

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