読むお坊さんのお話

誕生日は"煮ごめ" -み教えに触れようと努めることの大切さ-

貫名 譲(ぬきな ゆずる)

大阪大谷大学教授 広島市・浄満寺住職

どの家でも「精進」

 今年も御正忌(ごしょうき)報恩講が、1月9日から16日まで、ご本山でつとめられました。お参りになった方も多いことと思います。私のお寺でも11月に報恩講をおつとめし、年末にかけては、ご門徒のお家でも報恩講をつとめさせていただきました。

 その年末、私が毎月の月忌(がっき)参(まい)りをさせていただいているお家の一つ、ご高齢の男性Tさんのお家にお参りさせていただいた時のことです。

 正信偈をおつとめして、いつものようにお話をしていますと、いつの間にか年齢の話になりました。

 「おいくつになられましたか?」と私がお尋ねしますと、Tさんは「年が明けたら95になります。大正、昭和、平成、令和と、四つの時代を生きてきました」と、おっしゃいました。

 そして、お誕生日をうかがいますと、「1月15日」とのことでした。

 「普段は別々に暮らしておられるお子さんからひ孫さんまで、皆さんでお祝いされるのでしょうか。さぞかしにぎやかでしょうね」と私が言いますと、Tさんは「まあ、そうですね。にぎやかなのも疲れますよ」と笑ってお話になりました。

 そんなお話をしている時、ふとTさんが「小さい頃は、誕生日は〝煮ごめ〟でした」とおっしゃいました。

 「えっ!?」と、私は思わず声を上げてしまいました。煮ごめとは、安芸門徒の多い地域で、御正忌に小豆(あずき)や野菜で作る精進料理のことです。子どもの誕生日であっても、やはり御正忌のときは精進の煮ごめだったのかと驚いてしまいました。

 Tさんは「子どもの頃、誕生日に母が作ってくれた煮ごめを家族みんなで一緒に食べました。でも、私はそれを嫌だとは思いませんでした。親鸞聖人のご命日が1月16日ですから、お逮夜(たいや)の15日はどこのお家でもお精進でした。それが、戦後に1月15日が〝成人の日〟となってからは、いつの間にかないがしろにされてしまいました。さみしいことです」とお話しくださいました。

前に生まれた者は

 私が生まれた時はすでに「成人の日」となっていましたが、1980年代の始め頃までは、近くのスーパーでも「1月16日は親鸞聖人のご命日ですから」と、日中の成人式が終わった15日の夜から16日にかけては、肉や魚類の販売を控えるお店が、かろうじて残っていました。ところが最近は、すっかり見かけません。

 私はTさんのお話をうかがい、そのお家に脈々と伝えられてきたお念仏の灯(ともしび)に触れたように感じました。Tさんのご両親はわが子に対して、誕生日に煮ごめを通してお念仏のみ教えを伝えられました。そしてTさんは、ご両親のお念仏に向き合う姿勢を通して、ご自身もお念仏のみ教えをいただいておられたのです。

 親鸞聖人は『教行信証』の末尾に、道綽禅師(どうしゃくぜんじ)のお言葉を引用しておられます。

 「前(まえ)に生(うま)れるものは後(あと)のものを導き、後に生れるものは前のもののあとを尋(たず)ね、果てしなくつらなって途切(とぎ)れることのないようにしたい」(現代語版『教行信証』646ページ)

 私はTさんのお話をうかがいながら、Tさんはご自身の生き様を通して、私にお念仏のみ教えを伝えようとしておられたのだと感じました。それはその日だけではありません。これまで毎月お話をさせていただいていたこと、それらすべてがお導きであったのです。

 私がそのことに気づけなかったのは、私自身がお念仏のみ教えを求めようとしていなかったからです。Tさんに限りません。私の前を歩んでおられる念仏者の方々はたくさんいらっしゃるのに、その方々のお導きを、私は受けとめられていないのです。

 「お聴聞に励みましょう」とよく言われますが、お念仏のみ教えに触れようと努めることの大切さを、そのとき私はあらためて感じました。

 「誕生日に御正忌のご縁にあわせていただき、親鸞聖人のみ教えにふれ、南無阿弥陀仏とお念仏を称(とな)えさせていただける。このことが何よりもありがたいことです」と、Tさんは私に教えてくださったのだと思います。

 いつもの月忌(がっき)参(まい)りではありましたが、私には忘れられない月忌参りの一つとなりました。

(本願寺新報 2020年02月01日号掲載)

本願寺新報(毎月1、10、20発行・7/10、12/10号は休刊)に連載中の『みんなの法話』より

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