読むお坊さんのお話

法話の新しいかたち -お坊さんユーチューバーはじめました-

武田 正文(たけだ まさふみ)

臨床心理士 島根県邑南町・高善寺衆徒

お寺に行けない

 最近、インターネットの動画共有サービス・ユーチューブ(YouTube)を使って、法話を配信することを始めました。ご門徒のお宅にお参りした時、「お寺にもお参りくださいね」とお伝えすると、「お寺にお参りしたいけど、膝が痛くて歩くのがつらい」「腰が痛いので長い時間のお聴聞はできない」とおっしゃる方によく出会うようになったからです。

 「本当はお寺にお参りしたい」という方にこそ、ご法話を届けたいところですが、なかなかお参りしにくいということでした。また、病院や施設にいらっしゃるご門徒は、なおのことお寺にお参りすることが難しくなります。かつてお聴聞を喜んでおられた姿を思うと、お聴聞したい時にそれが難しいというのは、とても残念です。

 まだ現状では、ユーチューブをご覧になる高齢の方は少ないと思いますが、近い将来には、家庭でユーチューブを視聴することが一般的になると予想されます。

 ユーチューブで法話を発信することには、恥ずかしさや怖さもありましたが、喜んでくださる方もいるはずだと考え、悩んだ末に始めました。いざスタートしてみると、たくさんの壁がありましたが、喜んでくださった方が少しずつ声をかけてくださり、だんだんと手応えを感じるようになりました。そして、思わぬところで喜んでくれる人がいました。

 ユーチューブは、小学生に大人気なのです。今や小学生の将来の夢の第1位がユーチューバーなのです。お坊さんの動画が子どもウケするわけではないのですが、お坊さんがユーチューブを配信しているということ自体が小学生にとっては大興奮です。

 「どんな動画なの」と小学生が質問をしてくれます。小学生がお坊さんに質問をするというのは、初めての仏縁になる大チャンスです。しかし、逆にここで失敗すると、「やっぱり仏教はおもしろくないや」となってしまいます。

 そこで小学生たちへのお話をいろいろ試してみました。その中で最もウケがよかったのが「一番スゴイ数字は実は仏教なんだよ」というお話でした。

家族で話題を共有

 小学生にとって「百万、千億」などの大きな数字に関心をもつ時期があります。なかには「兆(ちょう)、京(けい)、垓(がい)」などを知っている子どももいます。

 「一番大きい数字を知っていますか?」と質問すると、「無量大数(むりょうたいすう)」と答えることができる子もいます。

 「無量大数の前の単位は?」と尋ねると、これを答えられる子にはまだ出会っていません。無量大数の前は「不可思議」になります。

 正信偈(しょうしんげ)の最初の二行、「帰命無量寿如来(きみょうむりょうじゅにょらい)、南無不可思議光(なも不ふかしぎこう)」の中に「無量」と「不可思議」があるのです。大きな数字の単位は仏教から来ているものがいくつもあるようです。私たちの理解を超えた次元を表現する言葉は、仏教の中にしかなかったのかもしれませんね。

 この話をすると、小学生たちは目をキラキラさせながら、阿弥陀如来のスーパーパワーに興味をもちはじめます。一緒におられるご家族も、興味深そうに聞いてくださいます。

 「無量寿」は無限の時間、「不可思議光」は無限の空間を表していて、阿弥陀如来は「いつでも、どこでも」私たちにはたらいておられます。

 ユーチューブのいいところは、家族みんなで仏教の話題を共有できるところにあります。仏さまのことは、おじいちゃん、おばあちゃんが詳しいです。一方で、ユーチューブについては、お孫さんのほうが詳しいのです。

 「ユーチューブ見てみてね」と声をかけると、世代を超えて一緒にお聴聞してくださる方もいらっしゃるようです。

 「一緒にお寺にお参りしましょう」ということが少しハードルが高いのであれば、まずは「一緒にユーチューブで法話を聞いてみましょう」ということから始めてみてもいいかもしれません。

 子どもたちも一緒にユーチューブの法話を視聴したことがご縁になって、将来、実際にお寺にお参りしてみようという思いに至るかもしれません。

 技術の進歩や価値観の変容で、今まで通りのご法話が届きにくくなっているかもしれませんが、少し工夫をすると仏教を喜んでくださる方はまだまだいらっしゃるように思います。

 時代に合わせた法話のスタイルを模索していきたいものです。

(本願寺新報 2020年03月10日号掲載)

本願寺新報(毎月1、10、20発行・7/10、12/10号は休刊)に連載中の『みんなの法話』より

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