読むお坊さんのお話

仰せのままに聞く -いのちいっぱいに生きていく念仏申せる人生を-

山田 秀英(やまだ しゅうえい)

布教使 兵庫県豊岡市・高福寺住職

もういいねん!

 私には、18歳の娘と16歳の息子がいます。今から13年前、娘は幼稚園児、息子は未就園児でした。いつものように3歳の息子とお風呂に入り、上がってから脱衣場で頭をふいてやっていると、廊下をバタバタ走る音が聞こえてきました。何だろうと思っていると、急にバーンと激しく脱衣場の戸が開きました。ビックリして目をやると、5歳の娘が目に涙を浮かべていました。

 「どうしたの」と聞く前に、「私、死んだらどうなるの!」と娘は絶叫します。そして、「エーン」と泣き出してしまいました。なぜ急に「死」について考え、悲しくなったのかわからなかったのですが、とにかく「エーン、エーン」と泣き続けています。

 気持ちが落ち着くまでしばらくそのままにして、時間をおいてから娘に話しました。

 「大丈夫、大丈夫だよ。心配ないよ。おじいちゃんも、おばあちゃんも、弟もパパもママも、みーんな一緒。みんなをお浄土に生まれさせてくださるんだから、安心していいんだって、一人ぼっちになんかならないからって、阿弥陀さまはおっしゃっているよ」

 娘は「みんな一緒に? おじいちゃんも、おばあちゃんも、パパもママも、弟もみんな一緒?」と聞きます。

 私は「そう、みんな一緒!」と言うと娘は「あー、よかった! みんな一緒なんだ。よかった!」と言って、涙でくしゃくしゃの顔をぬぐって、ニッコリほほ笑む顔に変わりました。

 その後、私は息子を着替えさせてリビングに戻りました。すると、娘は何食わぬ顔をしてテレビを見ています。

 坊守(ぼうもり)に「何があったの?」と聞くと、「わからない。普通にテレビを見ていたら突然、私、死んだらどうなるの? と聞くから、パパはお風呂だよと教えたの」と言いました。私は用事を済ませてから再びリビングに戻り、娘に「さっきは急に泣きながらお風呂に来てビックリしたよ」と話しました。でも、娘はその時は「うん」という程度で、それ以外に特に何も返事をしなかったのです。

 それから数日後、リビングで夕食を食べている時、私が何気なくお風呂での出来事の話を娘にすると、「なんのこと?」と言います。私が「なんのことって、泣きながらお風呂に来たじゃない」と聞くと、「ああ、あのこと? もういいねん!」と言います。

 意外な反応に私が驚いていると、娘は「だって、もう私は大丈夫だから。私はみんなと一緒にお浄土に生まれさせてもらえるんだから。一人じゃないから大丈夫!」。

 娘は安心したような、やわらかな表情でそう話してくれました。

生きている今こそ

 大人になると、自分勝手な価値観や物差しで物事を判断してしまいます。そうすると、仏さまの「必ず救う」との仰(おお)せを素直に聞けなくなってしまいがちです。

 娘の出来事で、私の説明ではありますが、阿弥陀さまの仰せを疑いなく、そのままを聞き入れている子どもを通して、「信心」の姿を見たような思いがしました。

 親鸞聖人は、ご和讃に、
  十方微塵世界(じっぽうみじんせかい)の
  念仏の衆生(しゅじょう)をみそなはし
  摂取(せっしゅ)してすてざれば
  阿弥陀となづけたてまつる
     (註釈版聖典571ページ)
 と示してくださいます。

 十方微塵とは、この世の生きとし生ける全ての命に阿弥陀さまの慈悲心は至り届いていることを表しています。それは、阿弥陀さまの「私におまかせしなさいね。間違いなく救うからね」とのおよび声が、「南無阿弥陀仏」という言葉となって私たちに届いてくださっているのです。

 南無阿弥陀仏の言葉の仏さまとなって、私たちの中に届いてくださるということは、亡くなってから出遇うのではなく、この世で生きている間に阿弥陀さまに出遇(あ)わせていただくのです。

 いくらそっぽを向いて逃げようとしても、必ず救い取り、決して離されることはありません。私たちをそのまま、まるごと救ってくださる仏さま。そうでなかったら、阿弥陀さまは仏さまになられることはなかったでしょう。

 阿弥陀さまが南無阿弥陀仏となって私に届いてくださるということは、「あなたを決して一人にはさせないよ。一人ぼっちなんかにはさせないよ」との宣言でもあるのです。この救いに目覚め、いのちいっぱいに生きていく、阿弥陀さまのご本願に照らされた人生、一人ではない、みんな一緒に、念仏申せる人生を歩ませていただきましょう。

(本願寺新報 2020年05月10日号掲載)

本願寺新報(毎月1、10、20発行・7/10、12/10号は休刊)に連載中の『みんなの法話』より

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