読むお坊さんのお話

「まこと」にであう人生 -仏となる安心のなかで他者の仕合わせに生きる-

木本 和行(きもと かずゆき)

大阪市東住吉区・信悦寺住職 浪速少年院教誨師

便利で豊なのに

 生きづらい世の中ですね。皆さんはどう思われますか?

 この世は「忍土(にんど)」といわれ、耐(た)え忍んでいかなければならない世界だと、お釈迦さまは教えてくださいます。しかし、現代は科学技術の発達により、便利で豊かな社会となりました。また、医学も進歩して寿命も長くなり、数年前まで治療(ちゆ)できなかった病も治癒できるようになってきました。それでも、私たちのこころは豊かになりません。なぜなのでしょうか?

 こんな時代を生きる私たちだからこそ「まこと」にであわなければならないのです。それでは、まこととは何なのでしょうか?

 皆さんは「宗教ってなに?」と問われたら何とお応(こた)えになりますか。難しい問いです。これといった答えはありませんし、人によって宗教のとらえ方も違いますから、100人に聞いたら、100の答えがあるのだと思います。

 今から10年以上も前のことですが、教区少年連盟のリーダー育成研修会を担当したとき、参加者と「宗教」の意味について、文字のうえから考える時間を共にしました。

 宗教の「宗」はムネと読みます。そこでムネという他の字を挙(あ)げると「胸」「棟」「旨」という字があり、参加者にその意味を考えてもらうと、「大切なもの」「中心」「支え」そして「要(かなめ)」という言葉が出てきました。

 次に「教(きょう)」という字の読み方を尋ねると、「おしえる」と答えてくれました。「他に読み方がある?」と問うと、少し考え込んでしまいました。私たちはやはり「おしえる」と読んでしまいます。「おそわる」と読むことは難しいのかもしれません。宗教的な意味においては「おそわる」ということが大切なのでしょう。

 また、漢字は同じような意味の漢字を並べて2字の熟語になることが多いようです。「教」と似た意味の漢字を使って2字の言葉を考えてもらうと、「教育」「教導」「教授」「教養」「教諭」を出してくれました。そして、「宗教」とは私にとって大切なものであり、中心であり、支えとなり、要であり、教わり、導かれ、授かり、養われ、諭されるものであることをみんなで確認しました。

仏になるいのち

 さて、仏教は仏さまの教えであり、仏になる教えです。お釈迦さまは、その教えをあきらかにしてくださいました。お釈迦さまのご誕生には、たくさんのお話が伝わっていますが、それを通して、仏教とはこういうことですと教えてくださいます。

 「天上天下唯我為尊(てんじょうてんげゆいがいそん) 三界皆苦吾当安之(さんがいかいくごとうあんし)(天の上にも天の下にもただわれを尊(とうと)しとなす。三界(さんがい)は皆(みな)苦なり、吾(われ)まさにこれを安(やす)んずべし)」

 お釈迦さまの最初のお言葉として伝わっています。

 このいのちが、存在が唯一無二であり、尊きいのちであり、そのいのちに目覚めよとおっしゃっているお言葉だと私は味わっています。仏教は〝目覚め〟であることを教えてくださいます。そして、この世界は苦しみや悲しみ、つらいことに満ちた世界(忍土)であり、それを抱えて生きている人々に安らぎを与えていくというお言葉です。

 人々に安らぎを与えていくことが、仏教の〝生き方〟ということです。他者の仕合わせのために生きることが、自分の仕合わせにつながっていくのでしょう。仏教は仏になる教えですから、仏さまのお心のような生き方を目標とするのです。

 それでは、私たちの宗旨(しゅうし)(ムネが2つも並んでいます)は浄土真宗ですが、どのような生き方をムネとするのでしょうか。

 親鸞聖人は「他力真実のむねをあかせるもろもろの正教(しょうきょう)は、本願を信じ念仏を申さば仏に成(な)る」(註釈版聖典839ページ)とお示しくださり、「南無(なも)阿弥陀仏」と念仏申し、仏となる身に定まる人生をおすすめくださいました。

 「ナモ」は帰命(きみょう)と訳され、阿弥陀さまの「勅命(ちょくめい)」に帰(き)していくということです。阿弥陀さまの勅命に帰すとは、「われにまかせよ、必ず救う」とのお言葉に「はい」と申していくことです。

 私たちは、自分のいのちでありながら、思い通りにならないいのちを生き、いつか命終えるときまで、自分ではいのちの解決ができません。

 「われにまかせよ、必ず救う」との阿弥陀さまの「まこと」のお言葉とお心がそんな私に届いたとき、生きづらい人生を転じて、安心して他者の仕合わせに生き、念仏を申す人生をいただくのです。

(本願寺新報 2021年05月01日号掲載)

本願寺新報(毎月1、10、20発行・7/10、12/10号は休刊)に連載中の『みんなの法話』より

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