私に届いたはたらき -「必ず救う」と、よび声になられた阿弥陀さま-

新たなご縁の方法

　新型コロナウイルスによって、私たちの日常は大きく変わりました。新しい生活スタイルの受容が一人一人に求められています。

　私事になりますが、最近話題のユーチューブ法話を始めました。「海徳寺ちゃんねる」という名前でチャンネルを立ち上げ、そこで阿弥陀さまのお話をしています。

　たくさんの人に喜んでもらうために、より多くの法話をチャンネル内に用意しておこうと、浄土真宗の聖典を開き、和上(わじょう)さま方が講義された本や、雑誌に載った法話の切り抜きなどを参考にしながら動画の制作に励んでいます。

　おかげさまで、日々ありがたい言葉にふれることができ、机で一人お念仏申しています。

　最近、コロナ禍によってお寺に参るのを控えたり、法事を延期される方々を見ると、今まで味わったことのない寂しさを覚えます。これまで通りの営みが続けにくくなった今、ご縁を持つための新しい方法を探してみるのもいいかもしれません。

　阿弥陀さまのご縁に遇(あ)えるのは、なにもお寺に参った時だけではないのです。文章を読んだり、音声を聞いたり、さまざまな方法がありますから、お寺さんに紹介してもらうのもよいでしょう。

　突きつめて言うと、「なもあみだぶつ」とお念仏申す身になったのならば、その一声のお念仏によって、いつでも、どこでも、いかなる場面においても仏法のご縁は成立し得るのです。

　ある日、お寺でご法事がつとまりました。そのお宅のご主人は、よくお寺にお聴聞に来られる方で、お参りしたときはいつもお念仏を称(とな)えられます。しかし、その日はいつもと違い、全くお念仏の声が聞かれません。

　おつとめの時も、ご法話を聞いても、うつむいたままでじっと黙っておられます。お体の具合でも悪いのかと思いましたが、最後に話をうかがってみると、そうではありませんでした。飛沫感染の危険を避けるため、なんとお念仏を控えておられたのです。

　ご主人を含め、お参りの方々は皆しっかりとマスクをつけておられましたので、そこまでしなくても...、と思いましたが、これも施主としての配慮だったのでしょう。

　帰り際に「お念仏できなかったのは寂しいことでしたね」と声をかけると、「法事の分のお念仏は持って帰って称えます」と笑って答えてくださいました。

今一度かみしめる

　ある和上(わじょう)のお説教に、次のようなお話があります。

　「ラジオのスイッチをいれると声が出る。あれは電波がラジオに届いているという意味じゃ。ラジオのスイッチをいれた時に電波が届いたかというと、そうではない。スイッチをひねろうがひねるまいが、ラジオに電波は届いている。

　それと同じように、口のスイッチをいれるとお念仏が出る。これは、阿弥陀仏の救いのはたらきが私に届いているということじゃ。お念仏する時に救いのはたらきが届いたかというと、そうではない。お念仏が出る時も、出ない時も、阿弥陀仏はずーっと、届いている。この私に届いている」

　私が「なもあみだぶつ」と声に出してお念仏をすることは、もちろん大切です。しかし、「なもあみだぶつ」となってくださった阿弥陀さまの救いのおはたらきを忘れていては本末転倒です。

　称えないと救われないのではなく、また、称えたから救われるわけでもありません。

　救われていくものの命の上には、すでによび声となって届いてくださった阿弥陀さまがおられるのです。その阿弥陀さまの仰(おお)せを、そのままに聞いたものが参っていく世界のことをお浄土と言います。

　阿弥陀さまは「悩めるすべての人々のために、大いなる安らぎを与えよう」と願われました。

　「必ず救う。ここにいるよ、一人じゃないよ」と私にお救いを告げるために、阿弥陀さまは「なもあみだぶつ」のよび声となられたのです。

　この世は、病や死、争いなど、苦しみ悩みが果てしなくわき起こり、決して尽きることはありません。しかし、このお念仏の教えは、苦悩の多い世の中に生きる私のために用意された教えなのです。孤独を感じやすく、不安やストレスが蓄積しやすい今だからこそ、阿弥陀さまとのご縁を新ためて見つめ直し、お念仏の喜びをより一層かみしめたいものです。

（本願寺新報　2021年05月10日号掲載）

本願寺新報（毎月1、10、20発行・7/10、12/10号は休刊）に連載中の『みんなの法話』より

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