読むお坊さんのお話

阿弥陀様の光につつまれて -夜道を照らす月のように、この私を導く南無阿弥陀仏-

藤澤 信照(ふじさわ しんしょう)

行信教校講師 滋賀県東近江市・浄光寺住職

ただ念仏して

 「すべてのものをわけへだてなく救う」と告げてくださる阿弥陀さまのみ教えを聞かせていただきながら、いつのまにか阿弥陀さまの仰(おお)せをおろそかにして、深い霧の中に迷いこんだように、先が見えなくなるということはないでしょうか。

 そんなとき、ハッとして忘れかけていた原点に立ち返らせてくれる。

 親鸞聖人が直々にお弟子方に語られる言葉には、そんな力があるように思います。

 聖人の弟子・唯円房(ゆいえんぼう)が書き記したとされる『歎異抄』の第2条に、

親鸞におきては、ただ念仏して、弥陀(みだ)にたすけられまゐらすべしと、よきひと(法然(ほうねん))の仰(おお)せをかぶりて、信ずるほかに別の子細(しさい)なきなり。
(註釈版聖典832ページ)

というお言葉が記されています。

 かねてより親鸞聖人から往生極楽の道について、よくよくお聞かせをいただきながら、勝手な解釈をする人たちの言葉に動揺し、親鸞聖人の仰せに不審を抱いた門弟たちが、その不審をはらそうといのちがけで関東から京都にやって来ました。

 おそらくお弟子方は、さまざまな疑問を親鸞聖人に投げかけたことと思います。その疑問を集約して、「あなた方が聞きたいのは、往生極楽の道であろう」と言われ、「親鸞におきては、ただ念仏して、弥陀にたすけられまゐらすべしと、よきひとの仰せをかぶりて、信ずるほかに別の子細なきなり」と、きっぱりとお答えになりました。その言葉には、阿弥陀さまのお救いに対して、人間のはからいは少しもまじえてはならないという、親鸞聖人の厳しい姿勢が感じられます。

 法然聖人のご法語のように、簡潔で、わかりやすい言葉は、その簡潔さゆえ、勝手な解釈が入り込む余地もあり、ときに大変な誤解を生じてしまう危うさも持っています。

 親鸞聖人は、聖道門(しょうどうもん)の人たちによる念仏弾圧や、法然聖人門下(もんか)の人たちの一念多念(いちねんたねん)の争いを通じて、そのことをよくよくご存じでした。ですから、法然聖人からお聞かせいただいた「ただ念仏して弥陀にたすけられまゐらすべし」という念仏往生の正しい意義を、言葉を尽くしてお示しくださったのだと思います。

生死の海を渡す船

 それでは、親鸞聖人がお作りくださった『正像末和讃(しょうぞうまつわさん)』の一首、

無明長夜(むみょうちょうや)の灯炬(とうこ)なり
智眼(ちげん)くらしとかなしむな
生死大海(しょうじだいかい)の船筏(せんばつ)なり
罪障(ざいしょう)おもしとなげかざれ
(同606ページ)

から、浄土真宗のお念仏の意義について味わいたいと思います。

 親鸞聖人は、私の称(とな)えるお念仏は、行く先の見えない闇の世界を生きる私を照らす「智慧(ちえ)の光」であるとお示しくださいました。

 阿弥陀さまは、不安や悩みをかかえて生きていかねばならない人々に、まことの安らぎをめぐむことのできる仏となりたいと願われました。そしていま、その願いを成就して「あなたを必ずさとりの世界に導くことのできる仏になりました。どうか、あなたの人生を私にまかせてください」と、よび続けてくださっているのです。それが「南無阿弥陀仏」という名号(みょうごう)にこめられた阿弥陀さまの願いと、救いのはたらきなのです。

 七(しち)高僧のお一人、中国の曇鸞(どんらん)大師は、阿弥陀さまの名号を、夜空に輝く月の光にたとえられました。月は私の手の届かない遙か遠いところにありますが、月が放つ光は私のところまで届き、夜の道を歩く私を照らしてくれます。

 ちょうどそのように、阿弥陀さまは、あらゆる世界に光を放って、すべての人々をその光の中におさめ取り、「あなたを救う仏は今ここにいるよ」と救いを告げて、私たちに安心を与えてくださっているのです。

 それゆえ親鸞聖人は、このようなお念仏がめぐまれているのだから、「自分には智慧がない」と悲しむことはないとおっしゃるのです。

 凡夫である私たちの人生には、この命を終えるまで苦悩が尽きることはありません。それはまるで、向こう岸の見えない広大な海を渡っていくようなものです。しかし、阿弥陀さまは、善人も悪人も、賢い者も愚かな者も、わけへだてなく乗せて、さとりの岸に渡してくださいます。

 お念仏のはたらきはまた、「生死の海を渡す大きな船」にもたとえられると、親鸞聖人はお示しくださっているのです。

(本願寺新報 2021年09月10日号掲載)

本願寺新報(毎月1、10、20発行・7/10、12/10号は休刊)に連載中の『みんなの法話』より

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