読むお坊さんのお話

念仏の称え方 -仏さまへのお願いの言葉ではない-

浅野 執持(あさの しゅうじ)

広島仏教学院講師 愛媛県今治市・万福寺衆徒

いつでもどこでも

 浄土真宗では念仏を大切にします。お仏壇やお寺のご本尊の前でお礼する際には姿勢を正し合掌し、念仏を称(とな)えます。念仏の数に決まりはありませんが、私はご門徒に一(ひと)呼吸半ほどの長さを目安にとお伝えしています。その後、上体を前に約45度傾けて礼拝(らいはい)します。これが浄土真宗の合掌・礼拝の作法です。

 でも、念仏はご本尊の前に限ったものではありません。立っていても、歩いていても、横になっていても、称えていいのです。念珠を持たない時も、普段着でも、仕事着でも、パジャマでも、称えてかまいません。ひとりでも、誰かと一緒に称えてもいいのです。

 では、どのように念仏は称えたらよいでしょうか。といっても決まりがあるわけではありません。お寺さんやご門徒の称える念仏は「なまんだぶつ」「なんまんだーぶ」と、人によってさまざまです。

 慣れないうちは住職さんや身近な方が念仏されているのを、まねるように称えてみるのもよいでしょう。称えやすいように称えさせていただく。大きな声でも、小さい声でもかまいません。

 子ども会などではわかりやすいように、声を合わせて「なもあみだぶつ」と3回はっきり大きな声で称えてもらっていますが、こうしなくてはいけないという決まりがないことが、大切なように思います。

 親鸞聖人の恩師・法然聖人は、念仏が称えやすい場に身を置きなさいとおっしゃっています。仏壇をご安置することは、きっと念仏のご縁となるでしょう。念仏の仲間がいることもまた尊いことです。

 僧侶である私も、以前はお参りするとき以外、なかなか念仏はでませんでした。10年以上前のことですが、本山で布教のお手伝いをさせていただいていた時、同僚の若手僧侶の中に大きな声で念仏する方がいました。いつでも、どこでも「なんまんだぶ」。念仏の声で彼がどこにいるかわかるほどでした。法衣から普段着に着替えても「なんまんだぶ」、本山を出ても「なんまんだぶ」、コンビニに行っても「なんまんだぶ」。行動を共にする私は、当初、恥ずかしさもあったのですが、いつの間にか呼応するように小さな声ですが念仏するようになっていました。今では歩いている時、運転している時、ふとした時に念仏がでます。

如来からのよび声

 念仏の〝称え方〟と題しましたが、もっと大切なことがあります。それは、念仏は仏さまへのお願いの言葉ではないということです。私がつみ上げる行(ぎょう)でもありません。親鸞聖人は南無阿弥陀仏を「まかせておくれ。必ず救う」との阿弥陀如来からの「および声」と示されています。私を抱きとって決して離さないという仏さまのはたらきが、声として私の上にあらわれてくださるのが念仏なのです。念仏は仏さまとのであいの言葉だと私は受け取っています。

 北米で浄土真宗の伝道をなさっている先生から「夜寝る前にベッドの上で、その日にあった感謝すべきことを思いだしながら念仏を称えるよう推奨(すいしょう)しています」とお聞きしました。生活の中で念仏に親しんでもらう工夫の一つのように思いました。

 また、ある方から「法要で拝読される御文章(ごぶんしょう)の最後に『御恩報尽(ごおんほうじん)の念仏』とありますが、あれは感謝が大切、感謝の思いで念仏することが大切という意味でしょうか」と質問をいただきました。

 私は少し考えて、「もちろん感謝することは大切なのですが、あの『聖人一流章(しょうにんいちりゅうしょう)』は、『信心が中心』と示された蓮如上人のお手紙です。『親鸞聖人から届けられた浄土真宗のみ教えは、この私を必ず救うという仏さまのおこころが私に至り届いているという信心、そのこころ一つをいただくことが肝要です』と示されています。『御恩報尽の念仏』とあるのは『仏さまのおこころをいただいた上での念仏は、(私からのはたらきかけではなく)感謝の念仏です』ということなのです」とお伝えしました。

 日々称える念仏の中に、仏さまの大きなこころに抱きとられてあることを知らされていく。そのであいを大切にするのが浄土真宗だと思います。その上での念仏は感謝の念仏なのですが、その念仏さえも阿弥陀如来のはたらきの中にある。これが親鸞聖人の示された他力の念仏です。

 念仏は称えなくてはいけないというものではありません。でも縁あれば遠慮なく、はからいなく念仏を称えてみてください。自ら称える念仏が、実は阿弥陀さまからのよび声であったと気づきます。そこに必ず仏さまとのであいがあります。

(本願寺新報 2022年03月10日号掲載)

本願寺新報(毎月1、10、20発行・7/10、12/10号は休刊)に連載中の『みんなの法話』より

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