読むお坊さんのお話

見上げてごらん夜の星を -すべてを照らすみ仏の光あり-

清胤 弘英(きよたね こうえい)

布教使 広島県安芸太田町・正覚寺住職

光につつまれて

 まだ子どもが幼かった頃の夏休み、日々忙しくてどこにも連れ出してやれず、一緒に遊んであげることも難しかったとき、久々に家族でお出かけすることができました。子どもたちも、とてもうれしそうでした。

 その日の帰り道、車窓から見える星空のきれいなこと。思わず車を田んぼのあぜ道にとめ、家族みんなで、天蓋(てんがい)に広がる美しく煌(きら)めく満天の星空を眺めました。流れ星も見えたのですよ! たった10分、15分の時間だったのですが、そのわずかな時間、つくづくと「しあわせだなぁ」と思いました。そして、毎日毎日、忙しさの中で星空なんて忘れていたけれど、この星空はいつも私たち家族を包み込み、光を届け、見まもってくれていたのだと感じられたのです。

 みなさんも、疲れた時、寂しい時、うれしい時、悲しい時、悔しい時、孤独な時、ご縁のある時、夜の星空を見上げてみませんか。自分が忘れていても、いつも光が届けられていたことに気付くのではないでしょうか。

 そんな夜空の星のように、私たちをいつも照らし続けてくださっているのが、仏さまの光です。日々の生活を一生懸命歩む中、時間を作ってでも、仏さまの教えをお聴聞してください。私を包み込む星空のように、仏さまに優しく見つめられ、仏さまの光に照らされていることを受け止められるはずです。そして日々の生活、一歩一歩の歩みを、正しく取り戻していきたいものです。

 親鸞聖人は「正信偈」に、「一切群生蒙光照(いっさいぐんじょうむこうしょう)」と示されています。「阿弥陀さまの無量の光に、私たち迷いの中にある生きとし生けるものすべてが照らされている」とおっしゃっています。特に「一切群生」とは、人間だけではなく、生きとし生けるもの全てを指しています。けれど、私たちはどれほどさまざまないのちが光に包まれ、照らされているということを実感しているでしょうか。
闇夜に蛍法座

闇夜に蛍法座

 昨年の6月10日、新月の真っ暗な夜に、初めて参加型体験付きの「闇夜に蛍(ほたる)法座」を開きました。まずはおつとめ。そして、蛍限定の俳句法座の後、お寺の前の川沿いで最盛期の蛍を観賞しました。満天の星空の下、はかないけれど美しい蛍の光に人生を重ね、光に魅了されるひと時でした。

 さて昔、あの良寛さんのお父さんで俳人の橘以南(いなん)という方がいました。この橘以南は、諸説あるのですが、30歳ほど年下で新進気鋭だった小林一茶と、「慈悲・殺生」という題を与えられ、俳句をよみあったといいます。その時、一茶が「やれ打つな蝿が手をすり足をする」とよんだのに対し、以南は「そこ踏むなゆうべ蛍の居たあたり」とよんで、一茶を感服させたというエピソードが伝えられています。

 双方とも、小さな虫にもいのちのあることを伝えてくれる俳句ですね。

 話は変わり、やはり蛍の頃、都会から大きな網を持ってきて蛍を捕まえて売ろうとする人がいたのです。地元の方が注意をし、その後、看板が立ちだしました。

 「蛍は見るだけにしましょう」「自然の蛍は捕らないようにしましょう」

 しかし、秋から冬の頃になると、カメムシという、触ると臭(くさ)いにおいのする虫が出てきます。臭いものですから、瓶に閉じ込めたり、ガムテープで引っ付けて捕ったりする方が多いのですが、さすがに蛍のように「カメムシは見るだけにしましょう」とか「自然のカメムシは捕らないようにしましょう」などという看板は出ません。なかなか私たちには、全てのいのちを慈悲の心でいとおしく見つめることは難しいようですね。

 このように、私たちはどこまでも自分中心の物の見方しかできませんから、全てのいのちを照らす仏さまのお心がわかりにくいのでしょう。しかし、仏さまはそんな私たちを見捨てません。美しい星空は、見ようが、見えまいが私たちを包み照らしているのと同じです。

 「すべてを照らすみ仏の光あり」と受け止めるのか、そんなものないと受け止めるのかでは、大きな違いが出てくることでしょう。

 私たちに降り注がれ、包み込む仏さまのあたたかな光を今一度感じてみましょう。すると、み光に照らされていても、普段は背を向け闇に向かいがちな自分自身であることに気付かされることでしょう。 一度限りの人生、仏さまを仰ぎ、いのちの尊さや不思議さを感じる歩みでありたいものです。

(本願寺新報 2022年06月01日号掲載)

本願寺新報(毎月1、10、20発行・7/10、12/10号は休刊)に連載中の『みんなの法話』より

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