読むお坊さんのお話

つながるご縁 お仏壇の前にひろがるしあわせ

藤澤 めぐみ(ふじさわ めぐみ)

布教使・京都市伏見区興禅寺住職

一緒におつとめ

 「お母さん、お寺さん来はりましたよ~」

 お嫁さんの声かけとともに、今年95歳を迎えられたご門徒の堀ゆり子さんは、ひ孫さんに手を引かれて、お仏壇の前にあるソファにゆっくりと寄りかかるようにして座られます。ほどなく、2階からにぎやかな足音が聞こえてくると、ゆり子さんの横に、ちょこんと3人のひ孫さんが並びます。

 「あーちゃん、今日も〝こ~げんぎ~ぎぃ〟やんなぁ?」と尋ねます。にっこりほほ笑むゆり子さんの笑顔がおつとめの合図。私はお念仏して、おりんをならします。

 毎月の月参りの風景。

 「こ~げんぎ~ぎぃ」とは「讃仏偈」のおつとめのことです。

 ひ孫さんたちから〝あーちゃん〟と呼ばれるゆり子さんは、10年前に抗がん剤治療のため入院されていましたが、孤独と不安としんどさから、6回の抗がん剤治療をしなければならないところ、5回目で断念して自宅に戻られました。

 しかし、自宅に戻っても1回分の治療を飛ばしたので、常に「再発」の2文字が頭をよぎる日暮らしだったと当時を振り返られます。そんな折、「ひ孫が『あーちゃん、こ~げんぎ~ぎぃ、しよっ』ってお仏壇の前まで手を引いてくれてね...」とうれしそうに話しながら、当時詠んだという、こんな歌を教えてくださいました。

 

  ひいまごと

  こえをあわせて讃仏偈

  このしあわせに 涙するわれ

 

 当時3歳だったひ孫さんも、今は小学校3年生。けれども、朝夕のおつとめの時間になると、「一緒にこ~げんぎ~ぎぃ、しよっ」と、6年経った今でも 〝あーちゃん〟の手をとって仏間まで一緒に歩くのだそうです。

 「今日はしんどいから部屋で寝ていようと思っていてもね、ひ孫がね、ひ孫に誘われて、このお仏壇の前に座らせてもらえるんですよ」と、うれしそうに話されます。

 「もうねぇ、今は住職さんの顔も、ここからでは輪郭しかわからないんです。95歳にもなって、みんなに迷惑ばっかりかけて生きてますけど、でも私、今日も讃仏偈がおつとめできて本当にうれしいです」と。

 お仏壇のご本尊は60年以上前、親鸞聖人700回大遠忌の年に、ゆり子さんのお父さまがご往生されたことがご縁となって、新たにお迎えされたものです。大遠忌のご法要の真っ最中のことで、ご本尊をお迎えされる方も多かったようです。そのご本尊を無事に自宅にお迎えすることができ、うれしくてうれしくて、以来、幼い頃から両親とお参りしていた「讃仏偈」のおつとめを、朝夕欠かさずするようになったのだそうです。

重なる声に仏さま

 月日は流れ、孫を授かり、ひ孫を授かり...。それでも変わらず毎日お仏壇の前で「讃仏偈」をおつとめするゆり子さん。その姿を見ていたひ孫さんは、いつしか「讃仏偈」の一節を諳んじるようになっていたのだそうです。

 ゆり子さんは、ひ孫さんに「讃仏偈」のおつとめを教えたことは一度もありません。しかし、そのひ孫さんから「あ~ちゃん、一緒にこ~げんぎ~ぎぃ、しよっ」と誘われると、しんどさも忘れるほどうれしくて、一歩一歩、お仏壇の前に、ひ孫と歩むのだそうです。

 ひ孫さんがおりんを2回ならして「こ~げんぎ~ぎぃ」と始めると、ゆり子さんがその続きをおつとめします。ひ孫さんはまだ幼かったので全部の字は読めないけれど、その「こ~げんぎ~ぎぃ」に導かれるように、その先を一緒におつとめしていきます。

 「これねぇ、私、父のご縁でお迎えした阿弥陀さんが、ひ孫の姿をかりて私になんまんだぶを勧めてくださっているのかなぁって思うんですよ。そう思ったら、なんだかうれしくて...」

 ひ孫さんの声とゆり子さんの声が重なります。その重なった声に阿弥陀さまのおこころが重なって、「こ~げんぎ~ぎぃ」の声が、今日も仏間に響きます。

 

  ひいまごと

  こえをあわせて讃仏偈

  このしあわせに 涙するわれ

 

 おつとめの後は、おそらく阿弥陀さまのおさがりを、ひ孫さんといただかれるのでしょう。こんな歌も教えてくださいました。

 

  おいしいね

  ならんで食べるおせんべい

  ひとあし先に 春のおとずれ

 

 ゆり子さんとひ孫さんと、それから阿弥陀さま...。阿弥陀さまと真向きになって、並んで食べるおせんべいの音が、パリンと響くように、南無阿弥陀仏のお念仏がひ孫さんを通してゆり子さんの上に響いています。

(本願寺新報 2024年12月01日号掲載)

本願寺新報(毎月1、10、20発行・7/10、12/10号は休刊)に連載中の『みんなの法話』より

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