読むお坊さんのお話

「弔う」ということ いのちを訪ねて 仏縁に導かれて

橘 行信(たちばな・ぎょうしん)

布教使・岐阜県本巣市圓勝寺住職

十二の徳の光明の

 私の地元の隣村には、各集落ごとに火葬場があります。10年ほど前までは、葬儀となれば、その火葬場を使って、自宅で葬儀をするのが主流でした。

 いざ、ご家族の誰かが呼吸が弱くなると、何時であろうとまずお寺に連絡が来ます。すぐさま駆けつけ、まだ息があるうちに臨終勤行をおつとめし、集まった皆さんと命終を見届けるのです。

 その後、通夜・葬儀の日程が決まると、地域の方々は一斉に腕をまくり、家族親族を超えて言わば「地域葬」に挑みます。公民館から荘厳壇を運び組み立てる人、器用に紙華を作る人、ご当家の掃除をする人、味噌汁やご飯を作る人、雪をかいたりテントを張ったり、仕事を休んでまで地域の人たちが手作りで準備をします。そして当日も司会から案内役まで地域の方が担います。

 通夜に出向くと、庭は大勢の人であふれ、家の中も部屋に収まりきらず廊下で正座される方もいました。

 通夜が終わると、私の前には机が運ばれ、その上に墨と筆が置かれます。そして人型に切り込みを入れた12枚の書き初め用紙を渡されます。そこに「無量光」「無辺光」「無礙光」...と、正信偈にある阿弥陀さまの十二光を一枚ずつ導師が書くならわしがあります。

 葬儀を終えて出棺の時になると、庭に大きなはしごが用意されます。その上に棺が載せられ、ゴザを巻きつけ麻ひもで固定します。はしごの前後には太い縄が掛けられ、主に故人の孫の男子がそれぞれ首に縄をかけ棺を持ち上げます。他の孫やひ孫たちも、はしごを握り支えます。

 通夜の時に書いた十二光の紙は、細長い竹にひもでつるして幡にして、棺の前後6本ずつ、12人の持ち手によって掲げられます。これは棺の中の方は、阿弥陀さまの十二の徳が満ち満ちた光明に照らされ、本願力によって仏に成られたことを表します。

 担ぎ手や幡持ちの方々はみな、雪道であってもわらじを履き、故人の人生の重さを大地を踏んで感じるのだそうです。

 太鼓の合図で区長の先導により行列は出発します。道中の6カ所の辻にはろうそくが灯され、その横に火守の方が座ります。火守役は主に故人の同級生や友人で、お念仏を称えながら行列を見送ったのち火を消します。6本のろうそくは六道を表し、六道を越えて仏と成られたことを同世代の仲間が見届けるのだそうです。

後の者は前を訪ねる

 火葬場では、「往相門」と書かれた額がつるされ、そこをくぐってから棺が置かれます。おつとめの後、履いてきたわらじと十二光の幡とともに、棺を火葬役の方々に引き渡します。火炉に納められ扉を閉めると、喪主は裏に回り小窓をのぞきながら自ら点火します。

 火葬を担当するのもまた地域の方々です。私が初めて火葬に立ち会った時、その方々からお酒の臭いがしたことに驚き、少し憤慨しました。そしてそのことを先代住職である父に話しました。すると、

 「想像してみろ。知らん人じゃないんや。ここでずっと一緒に暮らした人を今から火葬するんや。悲しくて寂しくてつらかろうに...でもやらないかん。その人の人生を、いのちを尊く思うからこそ、やらないかんのや」と、その理由を聞かされ、当初の自分の心を恥じたのを覚えています。

 それ以来、火葬の現場に何度も立ち会いました。体が反らないように鉄の棒で押さえたり、焼きむらがないように丁寧に動かしたり、経験者が後輩に指導しながら火葬されます。

 火葬を担当するのは、各家を代表して男性の方が務めますが、父親が早く亡くなられたお家があって、二十歳くらいでも家の代表として、火葬を担当した方がありました。火葬されるのは近所のおじさん。生まれた頃からかわいがってくれ、時には叱ってくれたおじさんを彼自身が火葬するのです。涙を流しながら震える手で「おじさん、ありがとう」とつぶやきながら務めました。

 火葬後は「還相門」と書かれた火炉からご遺骨が出されます。まさに仏と成られた故人が仏縁を恵みに地域の方々を導かれるご葬儀です。

 「弔う」とは、「とぶらう」ともいい、「訪う」とも書きます。弔うとは、訪ねることでもあるのでしょう。死を前にして立ち止まり、故人の人生を訪ね、故人と自身のいのちの交わりを訪ね、今の故人の姿を訪ね、そして自身のいのちの往き先を訪ねる。ご葬儀とは、いのちを訪ねる尊い儀式です。

 「前に生れんものは後を導き、後に生れんひとは前を訪へ」(註釈版聖典474㌻)と、親鸞聖人のお示しにあるように、流れていく日常のいのちの時間でもまた、立ち止まって仏縁を訪ねたいものです。

(本願寺新報 2025年02月01日号掲載)

本願寺新報(毎月1、10、20発行・7/10、12/10号は休刊)に連載中の『みんなの法話』より

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