カナダへの旅 お浄土に生まれゆくいのちを生きる
釋氏 真澄
龍谷大学非常勤講師 京都市下京区一年寺衆徒
見にしみる歳月
私は20年ほど前、カナダ開教区で開教使をつとめさせていただいたのですが、つい先日、過去に駐在したカナダの西部、ブリティッシュコロンビア州にあるスティブストン仏教会で、2日間のご法縁をいただきました。
緊張とワクワクする気持ちを胸に、久しぶりにお会いする方々のお顔を頭に浮かべながら、英語でおこなうレクチャー(講義)や報恩講の法話の準備を、時間をかけおこなっておりました。
そしていよいよスティブストンに到着して驚きました。この町はもともと、主に和歌山県から移民された日系人が多く居住する漁師町だったのですが、徐々に町が開発され、おしゃれなカフェやレストランが建ち並ぶ観光地へと様変わりしていたのです。そして時間とともに変わったのは街並みだけではありませんでした。
初日のレクチャーでは、5年前に書いた真宗国際伝道に関する博士論文の一部をご紹介することになり、特に英語礼拝聖典の式次第や、拝読文・讃仏歌などの起源を題材に、浄土真宗の西洋化・近代化についてお話をさせていただきました。
レクチャー後、「拝読文や讃仏歌は身近なものだったが、そのような歴史があると初めて知った! 面白かったよ!」というお言葉を受け、ほっとしました。
その後のポットラック(持ち寄り)夕食会では、かつての日曜学校の生徒たちが立派な成人となり、今でも私を思い出すことがあると、涙ながらに抱擁をしてくださいました。
そして、公私ともに親しかった、私が指揮をしていたお寺の合唱団の方々もお見えでした。ほとんどの方は80代になられ、当時のような快活なご様子ではありませんでしたが、「ひと目会いたい」とお越しくださった姿に胸が熱くなりました。
2日目の報恩講では、ローマ字で表記された「正信偈」を皆さんでおつとめしました。本堂の内陣から参拝者の外陣を見回すと、ちょこんと座って大きな声でみんなとおつとめする、同伴した11歳の息子の姿も見え、遠く離れた地でお念仏を一緒によろこべることを心よりうれしく思いました。
いよいよ法話をしようと参拝者の姿を見て、言葉が詰まってしまいました。駐在時、毎週の日曜礼拝に参拝され、私を家族の一員のようにお世話してくださった方々の多くが、すでにお浄土に旅立たれていることに気づいたのです。
この日のために準備した法話原稿の冒頭には、日本に帰国後の出来事がつづられていたのですが、近況をお伝えしたい方がほとんどいらっしゃらない現実に、20年の歳月の長さを身に染みて実感しました。そして法話の後、お念仏とともに涙があふれ出てきました。
諸行は無常なのですが、寂しいものです。
かならずかならず
さて、カナダでの6年間の伝道生活を振り返ると、あたたかいメンバーの方々に支えていただいたたいへん有り難い時間でしたが、一方で自己の無力さに反省を繰り返す日々でもありました。
その中でも鮮明に覚えているのは、私が法話をした後、苦悶の表情を浮かべて「私は浄土に生まれるとは思えない。浄土真宗が難しい...」といわれた熱心なメンバーのお言葉です。
易行(やさしい行)でありながら難信であるというお念仏のみ教えは、理屈を超えた情感の世界、たとえば死別など、自己の価値観が根底から覆されるような経験をご縁として、阿弥陀さまがご用意してくださるお浄土という世界への扉が自然に開かれ導かれることもあるようです。
親鸞聖人は親しいご門弟が亡くなった知らせを聞いた後のお手紙の中で、
かならずかならず一つところ へまゐりあふべく候へ
(註釈版聖典770㌻)
と、「かならず」という語を重ね、同じ浄土に往生することが絶対にできるのですよとおっしゃっています。
また、『阿弥陀経』には「倶会一処」(倶に一つの処で会う)というお言葉があります。お念仏をする者は、かならずお浄土で再会できるのです。
カナダでお出あいし、先立たれた方々は、「かならずかならず」再会できるお浄土の地で、私の弟や母、そして恩師と共に、にっこりとほほ笑んで私を待ってくださっているのでしょう。そして懐かしい方々はただ待つだけでなく、阿弥陀さまと共に、私のお念仏の声となって、「お浄土で仏となるいのちを生きているんだよ!」と呼びかけてくださっています。
今日もカナダに、そして世界中に、南無阿弥陀仏の声が響きわたっています。
(本願寺新報 2025年02月10日号掲載)
本願寺新報(毎月1、10、20発行・7/10、12/10号は休刊)に連載中の『みんなの法話』より
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