親鸞聖人750回大遠忌法要は無事円成いたしました。多くの方々のご参拝、誠にありがとうございました。
親鸞聖人750回大遠忌宗門長期振興計画

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本願寺虎之間障壁画復元模写事業について

― 復元にあたり ―

 このたび、親鸞聖人750回大遠忌宗門長期振興計画の重点項目⑪「現代社会への貢献」における文化財の保護と活用の具体的施策「本願寺デジタルアーカイブ事業」の一環として、退色(たいしょく)の著しい虎之間とらのま障壁画の復元摸写画を作成し、虎之間に設置いたしました(「本願寺デジタルアーカイブ事業」については『宗報』2008(平成20)年2・3月号に掲載)。すでに大遠忌法要参拝にあたり、書院拝観の入口である虎之間で、この復元模写画をご覧いただいた方も多いのではないかと存じます。
 虎之間は江戸時代前期に建てられ、昭和25年には本願寺玄関・浪之間なみのま・虎之間・太鼓之間たいこのまとして国の重要文化財に指定されました。豊臣秀吉の伏見城から移築されたという伝えもある虎之間の障壁画は創建以来、400年あまりの年月を経て、顔料の剥落・退色が著しく、ほとんど確認できなくなっておりました。この障壁画を保護し後世に伝えるため、また、大遠忌法要時に本来の虎之間の姿を参拝者に披露できるよう、復元模写事業が計画されました。

(写真1)虎之間全景(南東側より)
虎之間全景(南東側より)

1.復元の基本構想

 復元模写にあたっては(1)原画と同様、(かわ)及び天然顔料(天然岩絵具・天然土絵具・天然有機顔料)を使用し、肉筆による摸写画を作成する。(2)原状と同様に展示するため、文化財としての価値が損なわれることがないよう、摸写作成についての実績・経験・知識が豊富な専門技術者(業者)の持てる最高の技術をもって作成する。(3)障壁画の彩色は建物と違和感がないよう、室内の灯り・柱・床面などの色合い等、重要文化財としての価値を損なうことがないよう、「ある程度の古色復元(こしょくふくげん)」とする。(4)しかるべき専門家(日本画、建具)の監修等を受け、また、必要に応じて関係行政機関の指導を受け作成するという方針で進めることといたしました。
 この基本方針を受け、絵画の監修には大阪大学名誉教授で、日本絵画史が専門の武田恒夫氏に、また建具製作については、御影堂の建具修理にも携わられた選定保存技術保持者である鈴木正氏の指導を仰ぎ、永く後世に伝えるべきものを目指しました。

虎之間図面

2.復元模写作業

 虎之間障壁画には、28匹の虎や豹が竹林のなかに憩う様子が描かれております。虎之間にある39枚(44面)のうち、東側及び北東側にある出入口周辺の8枚をのぞく31枚(36面分)を復元対象としました。復元にあたり最高技術が求められるため、本願寺を含む文化財修理の実績と、武田恒夫氏および京都府文化財保護課より推薦があったうちから検討を重ね、川面美術研究所に依頼することとなりました。川面美術研究所はこれまで唐門の彩色修理や御影堂平成大修復の彩色補修作業などを担当いたしております。
 模写作業は2008(平成20)年5月から始まりました。復元模写は、まず虎之間において、原画のうえにトレコートフィルムをのせ、原画を痛めないように十分な注意を払いながら、写し取ります。そして、このフィルムを日本産のヒノキ材を使用した 基底材(きていざい)(新しい建具)に転写いたします。その後、彩色を施すこととなります。彩色に用いる顔料については龍谷大学理工学部 岡田至弘教授を中心とした科学的調査の結果に基づき、虎には金泥(きんでい)水銀(すいぎん)(しゅ)を含んだ墨や泥絵具(土系顔料)などを、また竹には銅を成分とする緑青を用いています。また背面が浪之間の浪濤図(はとうず)である戸襖(4面)には、デジタルアーカイブ事業で撮影されたデジタルデータの原寸大プリントが、新調建具に表装されています。こうして川面美術研究所の工房で、計31枚にのぼる模写画が完成いたしました。

(図1) (写真2)原本の写し取り作業
原本の写し取り作業

3.設置と収納について

2年半に及ぶ年月を費やして完成した復元模写画は、2011(平成23)年1月下旬から虎之間へ搬入されました。障壁画は高精細撮影ののち、2ヶ月近い日数をかけて壁面に建て込まれました。
 引違戸(ひきちがいど)開戸(ひらきど)部分を含めた取り外すことができる障壁画は取り外したのち、復元摸写画を設置しました。取り外した障壁画は、関係機関との協議を経て、飛雲閣二層の三十六歌仙絵と同様、境内にある蔵に保管することとしました。
 また、虎之間の北側と東側の障壁画は取り外せないため、建具状の板面に復元摸写画を作成し、障壁画に接触しないよう障壁画の前に設置しました。また、原画と模写画の間に無線デジタル温湿度計を設置し、温湿度の変化を観察いたしております。
 このほか、この機会に虎之間全体の照明を旧式の蛍光灯から調光式LEDライトに変更いたしました。照明の設置方法も天井からの吊り下げていたものを、小組格天井(こぐみごうてんじょう) に色合いを合わせた天井面への取付方法に変更しました。これにより虎之間は、広がりのある印象を与える見事な空間によみがえりました。

(図1) (写真2)原本の写し取り作業
虎之間北側

4.まとめ

 虎之間の隣にある浪之間には、親鸞聖人550回大遠忌の際に吉村孝敬が描いたと考えられる激しくうずまく波が、襖から壁、障子腰、さらには天井を埋めています。浪之間の創建当初の障壁画は現存しておりませんが、虎之間の障壁画は今後、750回大遠忌法要にかかる事業成果として、原画ともども永く大切に護られていくことでしょう。
 なお、龍谷大学 龍谷ミュージアム3階にあるミュージアムシアターにて『伝えゆくもの ~西本願寺の障壁画~』(約12分。11時・13時・15時の3回)が上映され、虎之間障壁画復元模写事業について理解を深めることができるほか、本願寺出版社より虎之間障壁画の復元模写画の絵はがきが発売されています。

(財務部)

(参考文献:九州国立博物館編集『本願寺展』西日本新聞社、平成19年)