阿弥陀さまのはたらき -今、私に至り届き、この身に満ちみちる-
加藤 真悟
布教使 大阪府四條畷市・自然寺住職

"ほんまやなぁ"
この冬も、たいへん厳しい寒さとなりました。私の住まいは大阪ですが、都会の街中(まちなか)ではなく、山沿いの郊外にあり、特に早朝や深夜などは、気温がぐっと下がります。ですので、そのような時間帯にご近所の人とお会いした時には、白い息を吐きながら、思わず「今日はすごく冷え込みますねぇ」と、お互いがぶるぶると寒さにふるえながら、挨拶を交わします。
つい先日、電車に乗って、街から自宅への帰路についた時のことでした。同じ車両に乗っていた若者が、友人同士で、窓の外に見えてきた山並みの風景を見ながら言いました。
「ああ、以前来た時には山は青々としていたのに、もう全部葉が落ちたんやなぁ」
「ほんまやなぁ...。みんな茶色くなってる」
「山が全部冬になってるなぁ」
それぞれに山を眺めながらの感想を口にしていたのですが、最後の方が言った「山が全部冬になってるなぁ」という表現に、私はおやっと思いました。
皆さんは、「山が全部冬になっている」という言い方をされますでしょうか。私は初めて聞いた表現のように、そのとき思えたのです。
そういえば、山の木々の葉を落としたのは冬でした。青い山を茶色くしたのは冬でした。全部冬がしたことです。冬には冬の力があるのです。そして山は冬になりました。
初冬(しょとう)、仲冬(ちゅうとう)、晩冬(ばんとう)と、その時期により、冬の季語は異なるようですが、さらに調べてみますと、本当にたくさんの言葉が出てきます。
寒(さむ)し、冱(い)つ、凍(こお)る、冴(さ)ゆ、霜柱(しもばしら)、空風(からかぜ)、雪催(ゆきもよい)、枯野(かれの)、水涸(みずか)る...。冬は数え切れないほどに多くの力をもって、私の目の前に広がる風景に変化をもたらしてくれるようです。しかし、目の前に広がる風景を変化させるだけなのかというと、それだけでもないようです。
私に白い息を吐かせたのは冬でした。私をぶるぶるとふるわせたのは冬でした。私に「冷え込みますねぇ」と言わせたのは冬でした。全部冬の力がしたことです。冬の力は私にはたらいていたのです。そうすると、電車の若者の言い方をすれば、眼前の風景だけではなく、私自身も冬になったということです。
冬をこの手につかむことはできませんが、間違いなく、冬には冬の力があるのです。
功徳の大宝海
「『功徳(くどく)』というのは、名号(みょうごう)のことである。『大宝海(だいほうかい)』とは、あらゆる功徳が欠けることなく満ちていることを、海にたとえておられるのである。そしてこの功徳を、本願のはたらきを信じる人の心のうちに、速(すみ)やかにはやく、欠けることなく満ちわたらせることを知らせようというのである。そのようなわけで金剛(こんごう)の信心を得た人は、知らなくても、求めなくても、すぐれた功徳の宝がその身に満ちみちるので、そのことを大宝海とたとえておられるのである」(現代語版『一念多念文意(いちねんたねんもんい)』34ページ)
親鸞聖人は、南無(なも)阿弥陀仏を、すべての人々を往生成仏(じょうぶつ)させるはたらきをもつ功徳とおっしゃいます。
さまざまな縁によって、本当にたくさんの苦悩を抱えて生きていかねばならない、それぞれの人生。しかし、どのような縁にあっても、支えきることができるように完成された南無阿弥陀仏の功徳(はたらき)は、何よりも今、この私の身に至り届き、私の気づかぬうちに、求めていないにもかかわらず、満ちみちていると言われるのです。
その満ちみちた功徳が、私の口からお念仏となってこぼれます。これをさせているのは阿弥陀さまです。
私は今、阿弥陀さまのことを想い、この法話の原稿を書いています。これを書かせているのも、もとをたどれば阿弥陀さまのおかげと味わっています。原稿を書くために、聖典を傍(かたわ)らに置きながら、拝読させていただいています。これも阿弥陀さまのおかげです。
また今、この紙面を開かせ、皆さんに仏さまの言葉に触れさせ、お念仏させているのも、阿弥陀さまなのでしょう。
阿弥陀さまを、私がこの手につかむことはできませんが、間違いなく、阿弥陀さまには阿弥陀さまの力があるのです。その阿弥陀さまの力のことを「本願力(ほんがんりき)」というのです。そして私もやがて、阿弥陀さまと同じさとりの仏とならせていただくのです。
(本願寺新報 2022年01月20日号掲載)
本願寺新報(毎月1、10、20発行・7/10、12/10号は休刊)に連載中の『みんなの法話』より
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