読むお坊さんのお話

夕日をみつめて いつか私も生まれゆくお浄土を想う

四夷 法顕(しい・ほうけん)

相愛大学非常勤講師・兵庫県西宮市信行寺住職

お浄土は西に

 お釈迦さまが説かれた教えの中で、『阿弥陀経』というお経があります。このお経には、西方の十万億仏土を過ぎたところに阿弥陀さまのお浄土があると説かれています。いわゆる「西方浄土」です。さまざまな方角がある中で、なぜ西方にお浄土が建立されたのでしょうか。その理由について中国の道綽禅師は、

 

閻浮提には、日の出づる処を生と名づけ、没する処を死と名づくといふをもつて、死地によるに神明の趣入その相助便なり。このゆゑに法蔵菩薩願じて成仏し、西にありて衆生を悲接したまふ。

  (註釈版聖典七祖篇270㌻)

 

とおっしゃっています。

 人間が住む閻浮提においては「日の出づる処を生」といわれ、太陽が昇る東の方角を生処とし、そして「没する処を死」といわれ、夕日が沈む西の方角を死処とされています。つまり、このいのち終わった後に生まれ往く処を想うのには、夕日が沈む方角によるのが最も便宜であるから、阿弥陀さまは西方にお浄土を建立され、大悲をもって衆生を導くのだといわれています。

 90歳代でご往生された、ある女性のご門徒の満中陰法要でのことです。おつとめが終わった後の法話で、西方にお浄土が説かれた意味を通して、「南無阿弥陀仏」のお心についてお話をさせていただきました。法話が終わると、一番前に座っておられた故人の娘さんが、「いまのご住職のお話、母のことを思い出しながら聞いておりました」と言われ、次のように話してくださいました。

 「母は幼い頃に両親が病気で亡くなり、親戚に育てられました。そんな母は、晩年いつも夕刻になると、夕日に向かって手を合わし、〈お父さん、お母さん...〉と、両親の名前をよびながらお念仏していました。私はその姿を見るたびに、なぜ夕日に向かってお念仏しているのだろうと不思議に思っていましたが、今のご法話を聞いてようやくわかりました。母は夕日をみつめながら、両親の待つお浄土に手を合わせていたのですね」

と、涙ぐみながらお話ししてくださいました。そして続けて、

 「このたびは母がお浄土へと参らせていただきました。これからは私が、お浄土で待ってくれている母のことを想いながら、夕日に向かって手を合わし、お念仏させていただこうと思います」

とおっしゃいました。

 娘さんのお話を通して、あらためてお念仏の教えのあたたかさを聞かせていただいたことでした。

仏さまのご配慮

 『阿弥陀経』には、西方にお浄土が示された後、そのお浄土には清らかな蓮華が咲き、宝石などで飾られたきらびやかな世界として説かれています。こうした美しい描写は、お浄土が私たちの欲望を満足させるような、煩悩の延長線上にある世界として説かれたわけではありません。

 阿弥陀さまは、「迷いの凡夫をわが国である浄土に生まれさせて、さとりに導きたい」と願われ、さとりの内容をさまざまな荘厳相をもって示し、私たちがお浄土へと想いを向けやすいようにしてくださいました。

 だからお浄土とは、阿弥陀さまのお慈悲のお心が形となってあらわされた、さとりの境界そのものであると聞かせていただいています。そして、夕日からあたたかな光が私に届いているように、お浄土からのはたらきが、今ここに届いてくださっている「南無(まかせよ)阿弥陀仏(かならず救う)」という言葉でした。

 阿弥陀さまは西方にお浄土を建立され、そのお浄土のありさまを、お釈迦さまはさまざまな言葉をもってお経に説いてくださっています。親鸞聖人はこうした如来さまのお慈悲の手だてを、

 

  釈迦・弥陀は慈悲の父母

  種々に善巧方便し

  われらが無上の信心を

  発起せしめたまひけり

     (註釈版聖典591㌻)

 

と詠われています。

 みなさんは西の空に大きく美しい夕日を前にした時、なにを想うでしょうか。「きれいだなあ」と、ただほれぼれとその夕日に見とれることもあるかもしれません。しかし、時にはその夕日を眺めながら先立って往かれた方々を偲び、そしていつか私も生まれ往くお浄土に想いを馳せながら、お念仏させていただくことも大切なご報謝の姿ではないでしょうか。

 私という存在は自己中心的なものの見方に縛られて、さとりのあり方とは真反対の生き方をしています。夕日が沈む西の方角に、美しく飾られたさとりのお浄土が説かれているのは、そのような私に少しでもお浄土へ想いを向けさせ、さとりの境界へと導こうと願われた、如来さまの行き届いたご配慮であったのです。

(本願寺新報 2025年04月20日号掲載)

本願寺新報(毎月1、10、20発行・7/10、12/10号は休刊)に連載中の『みんなの法話』より

※カット(え)の配置やふりがななど、WEBサイト用にレイアウトを変更しています。

※機種により表示が異なるおそれがある環境依存文字(一部の旧字や外字、特殊な記号)は、異体文字や類字または同意となる他の文字・記号で表記しております。

※本文、カット(え)の著作権は作者にあります。

一覧にもどる