読むお坊さんのお話

救いのはたらき 「つれてゆくぞの親のよびごえ」

藤澤 信照(ふじさわ しんしょう)

行信教校講師・滋賀県東近江市浄光寺住職

阿弥陀様から私へ

 「南無阿弥陀仏」とは通常「阿弥陀仏に南無する」と読む言葉ですから、「阿弥陀さま、どうか私をお助けください」と、私が阿弥陀さまに救いを求める言葉であると考えるのが普通です。ところが親鸞聖人は、「南無阿弥陀仏」を「阿弥陀仏に南無せよ」と読み、私に救いを告げて「われにまかせよ、必ず救う」と喚び続けてくださる阿弥陀さまの喚び声であると解釈されました。

 親鸞聖人が常識をくつがえして、このような解釈をされたのは、浄土真宗の七高僧のお一人である中国の善導大師の「二河白道の譬え」によっていました。

 その「二河白道の譬え」の中に、

 西の岸の上に、人ありて喚ばひていはく、「なんぢ一心に正念にしてただちに来れ、われよくなんぢを護らん。すべて水火の難に堕せんことを畏れざれ」と。

     (註釈版聖典224㌻)

という言葉が出てきます。

 西の岸から聞こえてくる喚び声とは、いったい何なのだろうかと思いながら読み進めていくと、善導大師ご自身が「次に喩へを合せば」と言って、譬喩の一つ一つを解説されていきます。そして、

「西の岸の上に人ありて喚ばふ」といふは、すなはち弥陀の願意に喩ふ。 (同226㌻)

と言われています。つまり、西の岸から喚び続けておられる声とは、阿弥陀さまの願いをあらわしたものだったのです。

 どういうことかというと、はじめに書きましたように、「南無阿弥陀仏」とは「阿弥陀さま、どうか私をお助けください」と、阿弥陀さまに救いを求める言葉であると考えがちですが、実は「あなたを救わずにはおかない」という願いをこめた阿弥陀さまの喚び声であると、善導大師はおっしゃっているのです。

 親鸞聖人は、そのお心を読み取られ、『教行信証』の「六字釈」に、「帰命は本願招喚の勅命なり」(同170㌻)と解釈されました。

 「帰命」とは通常「命に帰す」と読む言葉で、「仰せにしたがいます」という意味なのですが、親鸞聖人はそれを逆転して「帰せよの命」と読まれたのです。

 『無量寿経』(大経)の教説によれば、阿弥陀さまは生死の苦悩を流転し続けている私を、なんとしても救いたいという願いをおこされ、いくたびもいくたびも、私に向けて、「われにまかせよ、必ず救う」と喚び続けてくださっているのです。それが「帰せよの命」です。その阿弥陀さまの切なる願いをこめた喚び声が、ようやく私の心の耳を開き、阿弥陀さまの「命に帰す」ことができたのだと、親鸞聖人はお領解されたのです。

「呼ぶ」と「喚ぶ」

 親鸞聖人が、「南無阿弥陀仏」とは「私に救いを告げてくださる阿弥陀さまの喚び声である」と解釈されたお心を味わうとき、もう一つ忘れてはならないことがあります。それは、「阿弥陀さまのよび声」は、けっして遠くから私に向かって「おーい、こっちだよ」とよびかけておられるのではない、ということです。

 通常「よぶ」という時には「呼」という字を使いますが、善導大師や親鸞聖人は「喚」という字を使っておられます。そこでいま、使われている字の違いに寄せて、その意味するところの違いを味わっておきたいと思います。

 「呼ぶ」が「声をかける」というほどの意味であるのに対して、「喚ぶ」という字には、「喚起」と熟語にされるように、「声をかけて、ある感情や注意をよびおこす」という意味があります。

 親鸞聖人は先ほどの「六字釈」において、「帰命」の「帰」に「ヨリタノムナリ」「ヨリカカルナリ」というご左訓(註釈)を付しておられます。この註釈によって「南無阿弥陀仏」と称えることは、「必ずたすけるぞ、われにまかせよ」という仰せを素直に聞き受け、「必ずたすかる」と、阿弥陀さまにこの身をまかせていることであるとおっしゃっているのです。

 阿弥陀さまは、危うい状況に身を置いていることに全く気づいていない私をご覧になり、「おーい、そこは危ないぞ。こっちに来い」と呼び声をあげられたのではなく、私の危ういすがたを見るや、一目散に私のところへ駆けつけて私を抱きかかえ、「危なかったね。もう大丈夫」と声をかけてくださっているのです。

 原口針水和上が、

  われ称え

  われ聞くなれど南無阿弥陀

  つれてゆくぞの

  親のよびごえ

と詠われたのは、私がお念仏を称えて、その声を私が聞いているいるままが、いま、私の手を引いて浄土へと導いてくださっている阿弥陀さまの救いのはたらきそのものであるからでした。

(本願寺新報 2025年07月20日号掲載)

本願寺新報(毎月1、10、20発行・7/10、12/10号は休刊)に連載中の『みんなの法話』より

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