読むお坊さんのお話

聞けば聞くほど いつも仏さまに導かれ育てられている私

佐藤 知水(さとう・ちすい)

布教使・岡山県井原市光栄寺住職

お浄土とは

 歌人の俵万智さんの短歌に、

  つかうほど増えてゆくもの   かけるほど子が育つもの

  答えは言葉

というものがあります。

 最近ご法座で、この答えの部分をクイズにして質問しています。

 「お金や時間は使えば使うほど減っていきます」

 「植物は水や光をかけてやれば育ちます」

 「人間はどうでしょうか?」

 俵万智さんの答えは「言葉」です。

 子どもは聞いた言葉を日常生活で実際に使ってみて語彙を増やしていきます。外国語の習得もそうでしょう。ある方は先ほどの質問に「愛情」と答えられました。素敵な答えです。周りの人からかけられるたっぷりの愛情は子どもだけではなく大人も育ててくれます。そこから生まれる温かな言葉によって、振り返れば、私も今まで多くの方から育ててもらってきたように感じます。

 経典に説かれる仏さまの「言葉」も、私たちを仏になる私へと育て続けてくださいます。

 たとえば、「浄土」という言葉があります。世間では「浄土」どころか、死んだらおしまいと思う方も多いのではないでしょうか。私は最初、「お浄土」と聞いても、単なる仏教用語としてしか受け止めてなかったように思います。しかし、仏さまとお浄土の話を聞いていくうちに、浄土という言葉の受け止めが徐々に変わっていきました。

それではすまない

 先日あるお寺でご法話をした時のことです。ご法座の合間に、ご婦人が私を訪ねてこられました。お寺の門徒総代を務めるその方は、ご自身が中心となって「お寺だより」を手作りされていました。ノートには私がお話しした法話がぎっしりと書かれています。「お寺だより」に法話の要約を載せるため許可を取りに来られたのです。

 ご婦人は「私にとって一番の問題は『死の解決』です。今まで人間は死んだらおしまいと思っていました。どんなに頑張って生きてきても、お棺に入って炉に入り、出てきたときにはお骨です。人生とは結局カルシウムになるためのものと思っていました」と、少しユーモアを交えて言われました。しかしその後、表情に変化が見られました。

 「以前はそうとしか思えませんでした。でもわが子を見送ってから、それではすまされない問題にぶちあたりました」と、声を震わせておっしゃったのです。

ご婦人は大切な息子さんとの死別による悲しみの淵で、死の解決へと導く「お浄土の話」を真剣に聞き続けられました。お聴聞を重ね、ノートに法話内容を書きとめていくうちに、浄土という言葉の受け止めが変えられたようです。

 親鸞聖人は『高僧和讃』に、

  願土にいたればすみやかに

  無上涅槃を証してぞ

  すなはち大悲をおこすなり

  これを回向となづけたり

     (註釈版聖典581㌻)

とお示しくださいました。

 「願土」とは「一切の者をもれなくすくう」という阿弥陀仏の願いによって建てられたお浄土のことです。苦しみ悩み涙せずには生きられないこの私がいなければ、そもそも願いをおこされることはありませんでした。

 私たちは決して「死んでおしまい」の命を生きているのではありません。阿弥陀仏は、願いを聞き信じる人を必ず浄土に往生させ、速やかに、この上ないさとりを開き、大きな慈悲の心をおこさせてくださるのです。その大いなる願いは「あなたの人生決して空しく終わらせはしません。必ずお浄土に生まれさせ仏にします」と偏に私たち一人一人に向けられているのです。「南無阿弥陀仏」という言葉の仏、声の仏となって「信じなさい。まかせなさい」と喚び続けてくださいます。

 人間の言葉では解決がつかない問題があります。それが「生死の解決」です。お聴聞は時に難しいと感じるかもしれません。しかし自分に向けられたお慈悲の言葉は、はじめは気づかずとも聞き続ける中で「ああ、そうだったんですね。私の問題だったんですね」とよろこばせていただくこととなるのでしょう。

 ご婦人は「私の出あった仏さまの言葉を周りの方にも聞いてもらいたい」と「お寺だより」を作り始められました。大切な息子さんとの死別を機縁として、自らみ教えをよろこび、伝える人になってくださったのです。

 仏さまの「言葉」は聞けば聞くほど、私の人生が阿弥陀仏に支えられていることを日々味わうことができます。いつも阿弥陀仏の願いの中で、導かれ育て続けられている私自身であることが知らされるのです。

(本願寺新報 2025年09月10日号掲載)

本願寺新報(毎月1、10、20発行・7/10、12/10号は休刊)に連載中の『みんなの法話』より

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