読むお坊さんのお話

「信じる」ということ すべてをその名に込めて私たちに

深水 顕真(ふかみず・けんしん)

広島仏教学院講師・広島県三次市専正寺

「陰謀論」

 私は昨年度から本願寺派の僧侶養成機関の一つ、広島仏教学院の講師として「宗教学・宗教概論」の講義を担当しています。講義では、キリスト教、イスラム教などの世界宗教や、ヒンドゥー教、日本の神道などの民族宗教、そして国内外の新宗教、カルト(反社会的宗教)などをテーマとして扱っています。ここでは単に辞典的な知識を伝えるだけではなく、人間にとって宗教とは何か、「信じる」とは何かを中心に据えてカリキュラムを組み立てるように努めています。

 さて、昨年の講義の中で最も反響が大きかったものが、宗教現象としての「陰謀論」をテーマとした回でした。陰謀論とは「ある出来事や現象が利害関係者の陰謀の結果として発生するという理論」と辞典に説明されています。

 例えば天災や大きな事故、政治的な変動に対して、「闇の勢力の陰謀」といった物語をSNSなどで目にすることができます。一見すると陰謀論とは荒唐無稽な作り話のように見えるかもしれません。多くの場合、陰謀論は「流言飛語」として常識的に淘汰されてきました。

 しかし、ヨーロッパにおけるユダヤ人迫害や、米国のトランプ大統領支持者にも陰謀論が大きな影響を与えているといわれます。さらに今日においてはSNSを媒介とすることで論理的な枠組みを獲得し、多くの人が「信じる」ことができるものへと変貌しつつあります。

 その結果、世界中において政治、社会、公衆衛生にまで大きな影響を与えています。現在では陰謀論は、カルト研究の一分野として看過できないテーマと考えられ、宗教学において取り上げられています。

他力の救いとは

 では、浄土真宗の立場からこの陰謀論にどのように向き合うべきなのでしょうか。

 重要なことは、何を信じるかではなく、「信じる」こと自体を問い直すことです。

 親鸞聖人は自らの往生を求めて、比叡山においてさまざまな修行を重ねられました。つまり、何が往生のための修行として正しいのかを求めていかれました。しかし、そこに答えはありません。山を下り、法然聖人の教えをいただき、他力念仏の救いに出遇うことで答えにたどり着くことができました。

 この他力念仏の救いについて、蓮如上人は、親鸞聖人のご和讃を引用されて、次のように説明しておられます。

 

  真実信心の称名は

  弥陀回向の法なれば

  不回向となづけてぞ

  自力の称念きらはるる

      (正像末和讃・三九)

  といふは、弥陀のかたより、たのむこころも、たふとやありがたやと念仏申すこころも、みなあたへたまふゆゑに

    (註釈版聖典1244㌻)

 

 他力念仏の救いとは、自分自身のはからいで念仏を信じ称えるのではありません。救いのすべてを阿弥陀仏におまかせし、それを尊び有り難く思う心も含めて阿弥陀仏から与えてくださる、との意味です。

 つまり他力念仏の救いでは、「信じる」ことも、救いのはたらきも、すべて名号のなかに込められています。

 何を「信じる」べきであるのか、私たちはその答えに一人の人間としてたどり着くことは困難です。そのように不確かな人間であるからこそ、阿弥陀仏は「信じる」ことを含めて、他力念仏の救いを回向して(与えて)くださっています。

 広島仏教学院での講義では、さまざまな陰謀論の物語を紹介することから始めました。最初は荒唐無稽な物語に学院生たちは鼻で笑うような状況でしたが、その緻密な論理構造を紹介していくと、常識の壁が崩れた時にはうなずくしぐさを見せることもありました。

 そこで伝えたことは、自分自身で「信じる」ことの危うさです。世界中の知識がネットワークでつながるSNS隆盛の現在においても、人間が「信じる」ことの危うさは本質的に何も変わっていません。陰謀論に見られるように、自分自身のはからいとして何かを「信じる」時、それは人間の独善や傲慢に陥り、真実とはほど遠いものとなってしまいます。

 阿弥陀仏の救いは、人間のはからいではなく、「信じる」ことすらその名号に込め回向されています。だからこそ親鸞聖人は「ただ念仏のみぞまことにておはします」(同854㌻)と、今も私たちに向けて語りかけてくださっています。

(本願寺新報 2025年10月20日号掲載)

本願寺新報(毎月1、10、20発行・7/10、12/10号は休刊)に連載中の『みんなの法話』より

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