親鸞聖人750回大遠忌法要は無事円成いたしました。多くの方々のご参拝、誠にありがとうございました。
親鸞聖人750回大遠忌宗門長期振興計画

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本願寺デジタルアーカイブ事業について 3 「宗報」2008(平成20)年7月号掲載 新たな始まり 親鸞聖人750回大遠忌宗門長期進行計画の現状 vol.8
宗門長期振興計画⑪「現代社会への貢献」の推進事項のうち「文化財の保護と活用」として、『本願寺デジタルアーカイブ事業』を推進しています。

これまで、2月号と3月号で、本事業の概要や撮影することの意義、使用されているカメラシステムの特徴、また、その「デジタルアーカイブ」という言葉から連想される、複製品の作製が本当の目的ではないとも触れてきました。

先人が命をかけて護(まも)り伝えた信仰の結晶たる本願寺の法宝物は、単に「文化財」という言葉の中には収まりません。今回は、これまで触れてきた事柄を通して、こうした法宝物を次代に伝えようとする本事業の目的を見つめてみます。

1 複製品について

このたびの事業では、障壁画の詳細な記録を残し、いつでも複製品を作製できるよう対応しつつ、デジタルアーカイブ本来の目的、「記録保管施設」としての事業を推進しています。

複製品を作成する場合、その方法は最先端のプリンターで印刷するものから、本物と色や顔料(がんりょう)の厚さなどを見比べて本物と同じ岩絵具(いわえのぐ)を使って手作業で作製する方法まで、方法・費用・製作時間も多種多様です。

書院の障壁画(しょうへきが)は、全国の門信徒の懇念によって護(まも)られ、伝承されてきたという歴史があります。この事実から、複製品を作製し本物の障壁画と入れ替える際には、門信徒がいつでも本物の障壁画を拝観できるような形態の、本物の障壁画を収蔵できる施設を建設することが望ましいと思われます。

2 法宝物の保存について

現在の本願寺における法宝物の保存状況は、書院や飛雲閣(ひうんかく)など障壁画の大半は開放型、そして、そのほか蔵などに収められている法宝物は密閉型として二種類に大別できます。

文化財保存の基本概念は「外界影響の遮蔽(しゃへい)」といわれています。また、春秋の気候が安定する季節などに定期的な「目通し」や「風通し」を行い、絶えず確認しながら、その状況に応じて修理・修復を行なう必要があります。

本願寺の障壁画が保存されている書院や飛雲閣は、現在でも行事等で使用されており、常に外気と接しながら保存していかなければならない状況にあります。このため、文化財保存の基本概念だけで判断するなら、適応していない環境といえます。しかしながら、書院に附属する長い軒(のき)、障子、廊下などは、温度や湿度、太陽光線の影響を二重、三重に緩和する役目を果たし、また、日々行事などで使用してきたことによって、結果として日常的に「目通し」や「風通し」を行ってきたともいえ、今日まで障壁画を残すことの背景になったともいえます。

一方、密閉型に分類される法宝物が収められている蔵については、断熱性が高く、日本人の知恵ともいえるさまざまな工夫が凝らされており、蔵内への温度が伝わりにくい構造になっています。板張りの蔵内部は、吸放湿作用による調湿効果があります。また、古文書や軸装などの美術工芸品は一点ずつ布や紙で包まれ、吸放湿速度の大きい杉や桐の保存箱に保存されており、文化財保存の基本概念を遵守(じゅんしゅ)している状況といえます。

長い歴史の中で大きな劣化や損傷もなく、今日まで法宝物を保存してきたという本願寺の保存環境は、思われている以上に優れているといっても過言ではありません。

ただし、近年地球規模で多発している気温の上昇など、今後の状況によっては、すべての法宝物を徹底した温湿度管理が可能な収蔵施設へ収蔵することが求められる事態になるかもしれません。

3 文化財の修復

「修復」という言葉からは、比較的簡単な作業だと誤解されがちです。

例えば、一見すると一枚と思われる和紙は、絵が描かれている「本紙」と、本紙を支える「裏打ち」の二枚からできており、また、その和紙も、漉(す)かれた時代・産地によって、漉かれる技術や使われている材料が違います。

修復の際、巻物や軸が作られた時代や色、材料に合わせて和紙が選別されなければ、後の乾燥や保存、展陳する際の出し入れに、それぞれの和紙の特性の違いによって無理が生じ、文化財を後世に伝えるための修復が、その〝いのち〟を短くしてしまう結末を招きかねません。また同時に、修復する時機を逸し、もしくは、焦って修復を急ぐことでも、同様の結果が懸念されます。

この適切な時期の修復という観点から、このたび、本願寺の蔵に収蔵されている重要な法宝物、特に国から文化財の指定を受けている法宝物20数点のうち、特に過去の大遠忌(だいおんき)で定期的に修復されてきた「鏡御影(かがみのごえい)」のほか、各展覧会などで展示される回数が非常に多く、劣化が懸念されているもの数点について、文化庁の担当係官における調査が行われ、

(1)重要文化財「慕帰絵詞」十巻
(2)重要文化財「紙本著色 善信聖人絵」二巻

の2点がデジタルアーカイブ事業の一環として、国庫の補助を受けて修復することが認められました。

4 成果報告

これまで三回にわたり、デジタルアーカイブ事業の概要や、その具体的な取り組みについて述べてまいりました。デジタル撮影・データベース構築や、文化財の修復・複製の作製とあわせて大切なことがあります。

『蓮如上人御一代記聞書』には、

今の人は(いにしえ)をたづぬべし。また(ふる)き人は(いにしえ)をよくつたふべし。物語は()するものなり(しる)したるものは失せず (そうろ)ふ。 (『註釈版聖典』1247頁)

とあります。この蓮如上人のお言葉を実践するかのように、本願寺にはおびただしい数のお聖教(しょうぎょう)や文書が伝えられています。

残念ながら形あるものは、朽(く)ちてゆくのが世の習いです。そのいつか朽ちてゆくだろう形あるものを可能な限りの劣化しない状態に変換して残していくことが今回の事業の目的であり、それと合わせて、これまで修復や保存に携(たずさ)わった人々の歴史・伝統や思い、さらにこれまでの学術的記録や、あらたにわかった記録などのすべてを次代へ残してゆくため、成果報告たる記録誌の作成が考えられています。

(財務部)