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重要文化財紙本著色「善信聖人絵」保存修理について 「宗報」2010(平成22)年6月号掲載 新たな始まり 親鸞聖人750回大遠忌宗門長期振興計画の現状 vol.29
宗門長期振興計画の重点項目⑪「現代社会への貢献」の中、「文化財の保護と活用」として、『本願寺デジタルアーカイブ事業』を推進しています。約2400点にのぼる障壁画(しょうへきが) などを超高精細デジタルカメラで撮影し、原寸複製が可能なアーカイブ(保存記録)としてデータベース化を行っています。
今号は、そのデータベース化にあたって国の重要文化財である「善信聖人絵」(ぜんしんしょうにんえ) の修復事業が行われた概要をご説明いたします。

1 修理にあたり

重要文化財紙本著色「善信聖人絵」は上下二巻からなり、平成20年から京都国立博物館文化財保存修理所内で根本解体修理が始まりました。国から国宝・重要文化財の指定を受けている絵画作品は2120件(平成22年5月1日現在)あり、本願寺にも多くの国指定文化財があります。また、本願寺にはこれから指定されるであろう文化財がまだ多くあります。この中、今回修理が始まった「善信聖人絵」は昭和30年2月に国の重要文化財として指定されています。宗門内はもちろんのこと、絵画研究者、国立博物館などの学芸員の方々にも良く知られた絵巻です。これまでにも東京・京都・九州の国立博物館や地方の美術館・博物館で行われた本願寺や親鸞聖人に関わる展覧会では必ずと言ってよいほど出陳されている著名な文化財です。

平成19年11月、本願寺宗務所において本願寺財務部、史料研究所職員の立ち会いのもと文化庁美術学芸課絵画担当技官と修理技術者とでその状態の調査を行い(写真1)、その結果、早急に修理が必要であると判明したため、平成20年度からの修理事業を実施する運びとなりました。

文化庁技官らによる調査の様子  写真1 文化庁技官らによる調査の様子

2 損傷について

特に顕著な損傷は絵巻物の上部あるいは下部に、場面によっては本紙全体に見られる料紙の焼けがあげられます。作品が描かれている素材の料紙が、上に塗られた金属成分を含んだ絵具によって酸化してしまった状態です。部分的には紙が裏打ち紙から剥離(はくり)し、浮き上がった状態であったり、本紙料紙が相剥ぎ状態になっています。紙に描かれた絵画は裏打ち紙に支えられて、はじめて巻物や掛け軸に仕立てられて保存されます。しかし、裏打ち紙と本紙料紙(りょうし)が浮き上がってしまい、そのような状態が続くと紙は劣化を速め、破口から脱落し始めてしまいます。

「善信聖人絵」は、絵具の脱落がいつ始まっても不思議ではないという状態でした(写真2)。 さらに深刻な損傷としては、画面全体に折れが発生していたことでした。特に料紙が酸化している箇所では、紙の繊維自身に弾力性がなくなり短く切れてしまっている状態です(写真3)。キッパリと折れてしまった折れ山の先端では紙も絵の具も擦り切れてしまい残念ながら欠失しています。このような折れは細い軸棒に巻かれていたことも大きな原因のひとつです。 このような損傷を改善するために根本解体修理をすることになりました。


裏打ち紙から本紙料紙が浮き上がった部分 写真2 裏打ち紙から本紙料紙が浮き上がった部分

画面全体に折れが発生していた部分 写真3 画面全体に折れが発生していた部分

3 修理工程について

修理にあたっては事前に十分な調査を行い、次の工程を行うこととなりました。

①調査/絵具の状況調査、料紙の調査、損傷状況調査
②解装/表紙、軸をはずし本紙を一紙ずつにする。
③洗浄/仮裏打ちを行い、本紙全体の汚れを仮裏側(かりうらがわ)に移動させる。
④剥離止め/兎膠、粒膠、膠、布糊混合液などで本格的な絵具の強化・剥落止めを行う。
⑤旧裏打紙除去/剥落止めが終了し十分乾燥してから、酸化した部分には本紙表側の絵具と料紙の
  固定を図るために和紙と糊で部分表打ちを行い、旧裏打ち紙を取り除く。
⑥肌裏打ち/本紙に合わせて草木染めした美濃紙を用いて肌裏打ちを行う。
⑦補紙/料紙が欠失している部分を、精密にかたどりした修理工房で作成した補修紙で補填する。
⑧補修彩色/本紙の補紙箇所に対して補彩を施し、色調整を行う。
⑨折伏入れ/折れている箇所と今後折れが発生する可能性のある箇所に美濃紙(みのがみ)を細く切った
  補強紙を一本ずつ付けていく。
⑩増し裏打ち/奈良県吉野の美栖紙を用い増裏打ちを施し、付け廻しのための厚み調整を行う。
⑪表紙裂調整/本願寺修理担当者、文化庁担当技官と検討を重ね、本紙にふさわしい表紙裂地を選択する。
⑫総裏打ち/巻物の裏側となる紙で裏打ちを施す。
⑬仕上げ/長期間乾燥した後に新たに軸・表紙を取り付け仕上げを行う。
⑭収納/桐太巻き芯付きの桐屋郎二重箱を新調し収納する。


4 まとめ

文化財修理の仕事を仮に医療現場にたとえると患者(文化財)を前にして慎重に診断と検査(観察と調査)をし、必要な治療法を選択し治療計画(技法と修理方針)をたて、治療(修理)に入ります。最初の診断と検査結果を間違ってしまうと後の治療に大きな影響を及ぼすことも医療と文化財修理はよく似ていると言われます。

今回の修理前調査で本山の修理担当者、文化庁担当技官、修理技術者と異なる立場から調査することでさまざまなことが判明しました。この調査結果を踏まえ、修理事業を進めてまいります。また、修理事業の過程で現場から新発見や検討事項が出てきたとの報告があった場合は修理を一旦中断し、調査を行ったメンバーとともに検討会を持ち、問題の解決を図ります。このように修理の各工程で、文化庁担当技官、修理技術者と検討を重ねて慎重に作業を進めていきます。

このようなプロセスを踏む事でよい修理が可能となると言えます。修理前、「善信聖人絵」には水晶の軸先が取り付けられていました。今回の修理ではふさわしいものであると判断され再用し取り付けます(写真4)。これも調査の段階で検討し決まったことです。修理過程で浮かび上がってくる新発見などは詳しく、報告書に書きとどめ、後世に伝えてまいりたいと考えております。

再用される予定の水晶の軸先 写真4 再用される予定の水晶の軸先

(財務部)