親鸞聖人750回大遠忌法要は無事円成いたしました。多くの方々のご参拝、誠にありがとうございました。
親鸞聖人750回大遠忌宗門長期振興計画

大遠忌法要


法要のご案内

イベント情報

映像・音楽配信

安穏灯火リレー
本願寺デジタルアーカイブ事業について 「宗報」2008(平成20年)2月号掲載 新たな始まり 親鸞聖人750回大遠忌宗門長期振興計画の現状 vol.3
宗門長期振興計画の推進事項のうち「文化財の保護と活用」として、『本願寺デジタルアーカイブ事業』を推進しています。 その基本となる2,400点を超える襖絵(ふすまえ)や天井画や、親鸞聖人御影(ごえい)や慕帰絵(ぼきえ)などの撮影は、2007(平成19)年4月から2010(平成22)年12月までの2年8カ月間にわたって行われます。

デジタルカメラで「撮影して記録を残す」ことに始まるこのアーカイブ事業が、どのように文化財の保護と活用につながるのか、三回にわけて紹介いたします。

1 本願寺デジタルアーカイブ事業について

本事業は、本願寺書院・飛雲閣(ひうんかく)などにある襖絵・壁画・天井画などの絵画、親鸞聖人御影や慕帰絵などの文化財指定(美術工芸品)を受けている巻物について、今の姿を後世に伝承するため、傷みの著(いちじる)しいものや今後損傷の恐れのある文化財をデジタル撮影してデータベース化し、剥落(はくらく)・折れなどが著しい文化財については、その状況に応じて可能な限り修理を行い、必要なものについては複製を作成することも視野に入れながら推進するのが主な内容です。

また、最終年度には、デジタル撮影した写真を本にまとめるなど、事業の成果発表を行いたいと考えています。概要は次の通りです。

(1)デジタル撮影・データベース構築
(2)文化財の修復・複製の作成
(3)虎之間(とらのま)障壁画(しょうへきが)模写・復元
(4)成果報告など

2 デジタルアーカイブという言葉の意味

さて、近年各地で行われているデジタルアーカイブの取り組みやその報道から、デジタルアーカイブと聞くと、襖絵・屏風(びょうぶ)などの複製品を作成することが連想されます。しかし、これはその取り組みの一部分しか捉(とら)えていない、むしろ誤解とも言える連想です。なぜなら、その意味を直訳すると、デジタル=「数字・文字などの信号によって表現する」、アーカイブ=「記録保管するための施設」となり、決して文化財の複製品を作成することを意味するわけではないからです。わかりやすく言うなら、襖絵などの絵画をコンピュータに保存するという意味になります。

3 撮影の意義

本願寺デジタルアーカイブ事業は、現在のすべての襖絵・障壁画の状態を撮影し、記録保管するということから始まりました。実は、このすべての襖絵・障壁画を撮影するということ自体が、永い本願寺の歴史に鑑(かんが)みても例のない取り組みの一つです。

日本にカメラが伝来したのは、今から160年ほど前の江戸時代末期、1848(嘉永元)年ころと言われております。その直後に本願寺書院を撮影した写真は見つかっておらず、現在確認できる最古の写真は、カメラが伝わってから40年ほどが経過した1888(明治21)年のものです。 記念写真は思い出にもなりますが、写っているものからは、単に昔の状態がわかるだけではなく、今では確認できない何か重要なことが写り込んでいる可能性があります。

これが文化財の写真となると、その文化財がなんらかの理由で失われてしまった時には、設計図となる下絵がほとんど伝わっていない絵画にとって、撮影され保存されている写真が大変重要な記録・資料となります。

このような文化財が失われ、残された写真を元に復元された事例として、法隆寺金堂(こんどう)の漆喰(しっくい)壁画が挙げられます。

4 デジタル撮影でわかったこと

本願寺に伝わる障壁画や天井画には、永い歴史の中でわからなくなったことが数多くあります。

具体的に例を挙げると、昭和20年ころまで参拝者の受付や事務所として使われてきたといわれている虎之間の様子です。現在は真っ黒になってどんな虎が描かれていたのかがわかりにくくなっています。

また、1871(明治4)年に本願寺書院で開催された京都博覧会の出展品目には「金泥(こんでい)雲龍図(うんりゅうず)」という絵が記されていますが、書院には龍の絵とわかるものは見当たりません。

さらには、書院西側に雁の姿が描かれている雁之間(がんのま)と、菊をはじめとする秋の草花と垣根が描かれている菊之間には、あるはずの腰障子(こししょうじ)(障子と襖絵が一緒になった襖)がありません。それがいったいいつはずされ、どこに収蔵されたのか、まったく資料が見つかっていないのです。

雁之間と菊之間の腰障子の発見には至っていませんが、このたびの撮影では、虎之間の虎がどんな姿で描かれていたのかほぼその全容が明らかになったばかりではなく、「金泥雲龍図」らしき龍の絵が確認されるなど、さまざまなことが発見されています。
虎之間
このたびの撮影で剥落していた虎の絵の全容がわかった(虎之間)
「金泥雲龍図」 龍の図
「金泥雲龍図」
撮影で確認された龍の図

5 デジタル保存の意義

2,400点を超す障壁画や天井画を撮影した写真は膨大な枚数になります。しかし、このたびのデジタル撮影によって、コンピュータでの保存が可能となりスペースは大変小さくなります。

これに、保存場所・大きさ・作成された年代・作者などの基本情報から修復履歴・貸出歴などの情報を入力することで、データベースとして一括管理することが容易になります。

さらには、これらの情報を長期的に記録保管することによって、展覧会などへの出陳頻度がわかるだけでなく、展覧会会場へ運搬する際に行う状態確認の原本として画像を活用することができるなど、効率的な管理が可能となります。

そして、この超高精細のデジタル画像は、複製品を作成する際に、まさしく下絵ともなります。

(3月号につづく)