宗門長期振興計画の重点項目⑪「現代社会への貢献」のうち、国際貢献や社会的活動を推進する一環として、特定非営利活動法人(NPO法人)「JIPPO」について京都府の認証を受け、11月5日に設立いたしました。

NPO法人「JIPPO」は、あらゆる地域のさまざまな人びととの交流を深め、社会的な貢献をするために、「すべての存在といとなみは互いに関係し支えあっている」という仏教の基本理念に則り、親鸞聖人の「世のなか安穏(あんのん)なれ」という願いのもとに推進するものです。
現代社会は、人間中心主義的な利益の追求が、世界中でさまざまな危機的な状況を生み出しています。経済格差は、貧しい人びとから心身ともに豊かさを追求する機会を奪い、戦いは、社会的弱者から家族や生活を奪うだけでなく、人びとをさらなる戦いへと追いやります。
NPO法人「JIPPO」は、人びとの呻吟(しんぎん)の重さは国の内外で違いはないとの思いから、国家の利害を超え、「四海(しかい)のうちみな兄弟」の立場で、いのちの尊(とうと)さにめざめる一人ひとりが、それぞれのちがいを尊重し、ともにかがやくことのできる社会の実現をめざし、新しい活動に踏み出すことにしました。

まず、2005(平成17)年、宗門長期振興計画推進協議会の社会的活動部会に、「NGO設立に関する専門委員会」が設置されました。
従来の社会貢献の方法は、「たすけあい運動募金」や「宗門社会福祉事業等助成資金(和(やわ)らぎ基金)」などによる助成事業が中心でした。しかし、この委員会では、本願寺派独自のNGO(非政府組織)を設立して、国の壁を超えた民と民との直接的な交流である「民際(みんさい)貢献」に取り組むことができるかどうか慎重に検討し、アーユス仏教国際協力ネットワーク、庭野平和財団、シャンティ国際ボランティア会などの仏教NGOネットワーク(BNN)主要メンバーの活動経験に学びながら、可能な道を模索してきました。
現在、インド洋大津波などを契機として、宗門関係学校の学生などに、国際貢献への熱意が生まれつつあります。その思いを、宗門のあらゆる立場の人々へ広げ、海外へのまなざしに結ぶ場を開くことが求められています。これらの状況を反映して、とりわけ、古くから仏教文明圏を構成してきたアジア諸地域との交流の重要性を念頭に、仏教者としての国際交流を進めるため、審議を重ねながら、次第に、NGO活動を行うべく、NPO法人設立の具体化を図ってきたのです。

NPO法人「JIPPO」は、できるだけ広い視野を持って内外の課題に取り組むため、主要な活動分野として
(1) 平和構築
(2) 貧困問題
(3) 環境問題
(4) 災害救援・復興
の四つの柱を立てました。
(1)の平和構築の分野においては、まず、国際紛争や内戦の現実に関心を持ち、被害を受け苦難を背負わされ続けている人びとの思いに寄り添いながら、武力を用いることのない非暴力による問題解決の方法を模索します。
次に、(2)の貧困問題では、貧困にある開発途上国の生産者と先進国の消費者との間に、公正かつ適正な交易が行われる仕組み(フェアトレード)を構築するとともに、遠隔地にある生産者と消費者が、物流だけでなく、人間同士としての交流がなされるよう支援を行います。
さらに、(3)の環境問題においても、環境破壊の現状を把握するとともに、環境保全のための具体策を、文化的な側面も含め学習するとともに、豊かな山川草木(さんせんそうもく)と生命活動を支える取り組みを始めます。
昨今、地震や津波そして台風など、自然災害がさまざまな地域で、多くの人命を奪い、生活の基盤を失わせています。(4)の災害救援・復興の活動においては、そのような内外の災害に際し、他の諸団体と協力しながら、災害救助・援助事業に従事しながら、各地での活動を展開します。

NPO法人「JIPPO」は、京都府から認証を受け、発足したばかりです。発足間もないNPOが日々生起する広範な問題をすべて取りあげ、同時的に活動することはできません。
ですから、ここに掲げた四つの活動の柱は、日常活動の長期的な指針です。
具体的な活動としては、まずはじめに、宗門の関係者が気軽に参加できるような分野から取り組みを始めます。たとえば、スリランカの紅茶を輸入して販売するなどの取り組みを通して、フェアトレードの理念を学んだり、平和・貧困・環境などの問題に関心を持つためのスタディ・ツアーを企画し実施したり、環境問題に対する意識を深めるための植林活動を展開したり、各種の交流事業を実施することなどが計画されています。このような活動を、宗門関係学校の生徒や、宗門の僧侶・寺族・門信徒だけでなく、広く社会に呼びかけ、参加者の輪を広げることが、当面の課題です。
このたび、以上述べてきたようなことから構想された特定非営利活動法人「JIPPO」は、先達(せんだつ)の苦労に学びながら、自他ともに心豊かに生きることのできる社会の実現をめざして、着実な歩みを重ねていきたいと思います。
(社会部)