宗門長期振興計画の重点項目⑤「時代に即応する教学の振興」のうち、浄土真宗聖典シリーズ等の編纂の一環として、約50年ぶりとなる『本願寺史』の改訂事業に取り組んでいます。
『本願寺史』は今からおよそ50年前、親鸞聖人700回大遠忌(だいおんき)の記念事業の1つとして企画されました。大観すれば、中世・近世・近代の三つの時代に分け、本願寺の歴史を叙述し、本願寺が歩んできた道を検証することで、将来の宗門の飛躍に寄与させようという目的のもとに刊行されたものです。
当時の真宗史研究の最前線が盛り込まれたその本は、単に本願寺の歩みを通史として理解するためのものにとどまらず、研究書としても大きな意義を有するものとなりました。そして、その価値は現在でも失われていません。
しかし、それから今日にいたる間、親鸞聖人や本願寺についての研究は、歴史分野においてもめざましく進展してきました。蓄積された論文は膨大な数となり、また、新史料の発見や紹介も多く報告されました。本願寺の歴史に対する新知見も出され、通史のなかにも新たに書き加えるべき事項が多く見つかっています。
今回、750回大遠忌を迎えるにあたり、もう一度『本願寺史』に目を向けて、このような研究状況をそのなかに反映させ、50年前より充実した形で改訂増補を行い、宗門のさらなる発展に寄与するため、改訂増補を企画することとなりました。
改訂増補版の『本願寺史』は本編を中世・近世・近代・現代の全四巻とし、それに年表と索引が別冊として加わる予定です。旧版の本編は全三巻で、近現代史の記述は一冊に集約されていました。しかし、今回は明治期以降を近代と現代の二時代としてとらえる視点や、前門主勝如上人の事跡などの充実化をはかるため、明治期以降を二冊に分けて詳述する構成となっています。
本願寺の歴史を通史として著し、広く世に出したものは、700回大遠忌や750回大遠忌がはじめてではありません。江戸時代にも慶証寺(けいしょうじ)玄智(げんち)が『大谷(おおたに)本願寺通紀(ほんがんじつうき)』を著しています。この書物の意義は、単に本願寺に関する事象を網羅的に書き留めているということだけではなく、もはや現在では調べえない当時の事柄や史料を知るための文献となっている点にもあります。
いずれの時にも世に出された本願寺の歴史書は、長く後々にまで参照され続けるものとなっています。今回の改訂増補版も過去の通史編纂事業を踏襲しつつ、新たなる視点や成果を取り入れた現代に通用する『本願寺史』にしたいと考えています。
「本願寺史編纂所」設置の記事を掲載する「本願寺新報」
(昭和31〔1956〕年6月5日号)
(本願寺史料研究所)